塩酸セフマチレン水和物(S-1090)の毒性試験 (第5報) : ラットにおける6ヵ月反復経口投与毒性試験および追加試験

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塩酸セフマチレン水和物(S-1090)の100, 300および1000mg (力価)/kg/日の3用量を設定し, ラットに1日1回, 6ヵ月反復経口投与した。S-1090投与全群で, 軟便, 赤褐色便(S-1090又はその分解物と飼料中の3価鉄によるキレート物), 腹部膨満, 摂餌量および摂水量の増加, 尿pHの低下, 総白血球数の減少(100mg (力価) /kg群の雄を除く)がみられた。300mg (力価) /kg群の雄1例が投与期間半ばに粘液便を排泄し, 著明な体重減少を来たして死亡した。生存例の剖検では, S-1090投与全群で著明な盲腸拡張がみられた。その他の検査項目には特記すべき変化を認めなかった。休薬期間では, 初期から1000mg (力価)/kg群で再び軟便や粘液便が発現し, 体重が箸明に減少した。休薬後約2週にはこのうち1例が死亡し, 1例を切迫殺した。これらの例では腸炎が観察された。休薬3週には殆どの例が回復した。腸炎の発現機序とS-1090の100および300mg (力価)/kg群での休薬後の変化を検討するため, 対照物質として同じ経口セフェム系抗生物質であるcefdinir (CFDN)投与群を加えて, 新たに6ヵ月反復経口投与毒性試験を実施した。死亡例は発生しなかった。投与期間終了時には, S-1090及びCFDN投与群ともに腸内細菌叢の減少が注目された。休薬2週には, Clostridium difficile (C.difficile)及びD-1毒素がS-1090 300mg (力価)/kg以上の投与群及びCFDN投与群の盲腸内容物において高濃度に検出された。これらの群では盲腸および結腸に炎症性病変を認めた。腸内細菌叢はS-1090投与群では休薬4週までにほぼ投与前の状態に回復したが, CFDN投与群ではC.difficileがなお高濃度に残存した。また, D-1毒素は休薬4週には, S-1090 1000mg (力価)/kg投与群で弱陽性, CFDN投与群で陽性であった。以上の結果から, 腸炎を伴う状態悪化は, 休薬により他の菌種より急速に増殖したC.difficileと本菌が産生するD-1毒素により誘発されたと推察され, CFDNにも共通して認められた。S-1090の無毒性量は, 両試験の結果から, 腸炎が発生しない100mg (力価)/kg/日と判断した。
日本トキシコロジー学会の論文
2001-05-08

塩酸セフマチレン水和物(S-1090)の毒性試験 (第5報) : ラットにおける6ヵ月反復経口投与毒性試験および追加試験

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