ブドウ果実の日射病(生理的障害)に関する研究
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概要
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1.ブドウ果実に発生する生理的障害の中で,日射病と呼ばれている障害は,果実の硬核期に発生し,特にガラス室ブドウではその被害が甚だしい。したがつて,この障害の発生の原因,および機構を調査するためにMuscat of Alexandriaを用い,1957年および1959年にわたり,2, 3の実験を行なつた。 2.本障害は,直射日光を受けた果粒が,最初,果皮を透して果肉に火傷類似の斑点を生じ,漸次拡大し,褐変陥入するが時には急激に全果粒が熱湯をあびたように軟化褐変し,萎縮,脱落することも少なくない。かような障害果を解剖学的に観察すると,最初は,原形質に変性壊死が認められ,やがてこれらの壊死細胞は褐変,凝集する。 3. 6月下旬に白ビニール,黒ビニール,新聞紙,黒新聞紙および各種の色硫酸紙で樹上の果房を袋掛すると,晴天日中において最も高温を示す白ビニール区,および黒ビニール区では,標準無袋区より著しく障害の発生が多かつた。また種々の色彩の硫酸紙による袋掛の結果では,光線の種類よりも温度が障害発生との間に深い関連があるようである。 4.一方,定温器内において正常果を温度処理すると樹上に生ずる障害と極めて類似の障害の発生がみられた。そして定温器内の温度が40°C(果実温35°C)では3.5時間,42°C(36.6〜37.5°C)では2時間,45°C(38.8°C)では1.5時間,48°C(39.6〜40°C)では1時間後に障害が発生した。 5.更に,温度の差異や,障害の発生程度と呼吸量の変化をそれぞれ,in vitroで測定した処,果実温度がある程度まで上昇するに従い,また障害の程度がある程度進むほど,呼吸量は増加したが,いずれも極端な場合には,呼吸量が急激に減少し,呼吸率も異常を示した。 6.障害果には,アルコールおよびアセトアルデヒドが検出され,また,アセトアルデヒドの添加によつて呼吸抑制が行なわれるとともに,果実は褐変軟化した。 7.障害果の糖および酸含量は,正常果に比して極めて少なく,本障害の発生による異常呼吸により,これらの呼吸基質が急激に消耗したようである。 8.以上の結果から,本障害はブドウ果実が硬核期中に日射に伴なう高温によつて果実の異常呼吸を促進し,その結果,呼吸の代謝生成物として細胞内にアセトアルデヒドの蓄積を来たし,それが直接または間接に細胞の褐変・壊死を招くものであると考えられる。
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