「払込資本と留保利益の区別」の再確認
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概要
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平成13 年の商法改正から平成18 年の会社法の施行等により分配規制が大きく変化した。その際、会計サイドから当該分配規制に多くの批判があったが、あれから4 年を経過した現在、当時のような声はあまり聞かない。確かに、今も、企業会計原則上では「払込資本と留保利益の区別の原則」(以下、「区別原則」という)は健在ではあるが、会計原則上で規定されていても、当該原則が会社法の分配規制の下で機能しているかどうかはわからない。あるいは既に形骸化してしまっているのかもしれない。本稿では、会計の基本原理である当該区別原則の会計上の意義を再確認している。とりわけ、一連の会社法令の改正により当該区別原則が曖昧となっている状況の下で当該原則が本来の役割を果しているか否か、を問うている。結論をいえば、区別原則は、今も健在であるといえる。それは、事例の考察からも明らかなように、剰余金の区別を必要としない、また株主資本内部の区分表示も定めることもないとしながらも、利益剰余金をプラスのまま「その他資本剰余金」を原資として分配する会社が極めて少数であるからである。会社がこうした行動をとるのは、そこに区別原則を貫こうとする会計人の強い意思があるためで、経営者にいずれの財源から分配するかの判断を求めた際、会社法の分配規制には関係なく当該区別原則を維持する行動をとることになる。こうした行動は、当該区別原則が会計人の心の中に何よりも意識として定着しており、それは"会計的なセンス"とも呼べるであろう。そして、こうした会計センスは"分配原資"を明らかにし、その行為を利害関係者に正確に伝達することで具体化される。基準等が改正され規定が緩やかになろうとも、区別原則は会計の本来の役割である企業の内容を伝達するという観点から健在であり、現在も未来もなくなることはないであろう。
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