夢の方法 : 漱石『三四郎』論
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概要
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漱石文芸における夢と現実の問題は、その作家的資質にかかわる重要な問題である。漱石は、人間存在の根源にあるものに固執し続けた作家である。意識の深層で蠢く無意識の暗がりに探照燈を照らし、人間存在の根源に深く分け入ろうとする作家的資質は、既に、作家以前の漱石に兆していた。たとえば、明治二九年一〇月の「人生」(「龍南会雑誌」四十九号)で、「蓋し人は夢を見るものなり、思も寄らぬ夢を見るものなり、覚めて後冷汗背に洽く、茫然自失する事あるものなり、夢ならばと一笑に附し去るものは、一を知つて二を知らぬものなり、夢は必ずしも夜中臥床の上にのみ見舞に来るものにあらず、青天にも白日にも来り、大道の真中にても来り、衣冠束帯の折だに容赦なく闥を排して闖入し来る」(『漱石全集』一六巻、一二-一三頁)と述べる漱石は、その後、作家となり、夢を方法として作品を書くこととなる。明治四一年七月から八月にかけて「東京・大阪朝日新聞」に連載された『夢十夜』は、まさに漱石の作家的資質が開花した作品である。意識の深層に蠢く無意識の世界が、夢という方法を採ることで、意識の表層に浮かび上がってくる。この夢と現実の交錯のなかで、漱石は人間存在の根源に分け入ることができると考えたのである。本論では、明治四一年九月から一二月まで「東京・大阪朝日新聞」に連載された『三四郎』の広田先生の夢に着目し、漱石の夢の方法について論及する。
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