幽霊という狂気 : 漱石「琴のそら音」
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
作品「琴のそら音」は、明治三十八年六月、「七人」に発表され、明治三十九年五月、大倉書店・服部書店刊行の『漾虚集』に所収された。「琴のそら音」は、「遠い距離に於てある人の脳の細胞と、他の人の細胞が感じて一種の科学的変化を起す」という「不思議」な出来事を、「幽霊」というキーワードで、その生の実存に深く関わりながら、描き出そうとする。『漾虚集』は、日露戦争時に執筆されたため、その影響も色濃く表現されている。漱石は、西欧に対する近代国家日本のあり方に深い疑義を呈していた。日露戦争の勝利に、国民は狂喜乱舞するが、その後のポーツマス条約の不遇な内容によって国民の怒りと不満が爆発する。こうした社会情勢のもと、漱石は旺盛な執筆活動を開始したが、それは、世間の喧騒とはかけ離れた幽玄の世界に男女の恋愛を描くという幻想的なものであった。「幽霊」「催眠術」という超現実の世界に漱石の生の重い想念を開花させた作品として、「琴のそら音」について、論及する。なお本稿における漱石の作品引用は、すべて『漱石全集』岩波書店 (平成五年十二月〜平成十一年三月) に拠った。
著者
関連論文
- 国語教育と文学 : ことばと心
- 宮沢賢治『注文の多い料理店』論 : について
- 読書教育と文学 : 他者へのまなざし
- 幽霊という狂気 : 漱石「琴のそら音」
- 森鴎外「舞姫」序論
- 饒舌という狂気 : 漱石『吾輩は猫である』
- 漱石文学の源流 : その作家的出発をめぐって
- 『野分』論 : 実相と影
- 夏目漱石と西田幾多郎における東洋と西洋 : 『行人』と『善の研究』
- 夢の方法 : 漱石『三四郎』論
- 生涯学習としての村上春樹の読書
- 村上春樹『羊をめぐる冒険』論 : との出会い
- 表象の-漱石(人文・社会科学編)
- 芥川龍之介「歯車」論 : 不条理な意識
- 『三四郎』論 : 「迷羊(ストレイシープ)」について
- 西洋近代を超えるもの : 漱石文芸における の諸相 (2)
- 樋口一葉『たけくらべ』論 : の言葉
- 生涯学習としての樋口一葉の音読
- 選び取られた : 漱石文芸におけるの諸相
- 絶対という狂気 : 漱石『行人』
- 生涯学習としての一葉の読書
- 夢幻という狂気 : 漱石『永日小品』
- 生涯学習としての鴎外の読書
- 樋口一葉『にごりえ』論 : という物語
- 生涯学習としての漱石の作品研究
- 『趣味の遺伝』論
- 生涯学習としての漱石の読書
- 『坑夫』論 : 片付かない不安
- 『草枕』論 : 浮遊する魂
- 『草枕』論--浮遊する魂