ウズラのエステラーゼ活性に関する電気泳動的研究
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概要
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ウズラの脳, 下垂体, 肺臓, 心臓, 肝臓, 腎臓, 脾臓, 膵臓, 胆嚢, 副腎, 腺胃, 筋胃, 卵巣または精巣, 卵管, 筋肉, 脂肪, 舌, 皮膚および血清におけるesterase zymogramの差異について寒天ゲル電気泳動法を用いて研究をおこなった.その結果の大要はつぎのとおりである.1)基質にα-naphthyl acetateを用い60日齢の雌, 雄各個体について, 先ずnon-specific esteraseの分離, 検出を行なった結果, 上記の各器官, 組織および血清とも陽極側へ移動する活性泳動帯が検出されたが, 全般的にその活性帯の数には個体による変異が著しかった.そして臓器特異性を示す活性帯は, 肝臓, 膵臓, 腎臓および筋胃において検出されたが, 他の器官, 組織では明瞭な差異は認められなかった.2)肝臓では陽極へ移動する12本の活性泳動帯が検出され, 便宜上移動性のもっとも大きい活性帯から順次番号をつけて分類した.これらのうち, 移動性のもっとも早いバンド1は, 肝臓特有の活性帯(L-活性帯)で雌, 雄の区別なく全個体において検出された.バンド2〜12は個体によってはそのうちのいくつかが存在しないもの, あるいはこれよりも多く発現するものもあり個体間の変異が著しかった.つぎに10^<-3>M eserine sulfate水溶液を用いて阻害剤に対する態度を検討した結果, 移動性のもっとも遅いバンドはその活性が抑えられたが, このeserine sensitive活性帯は10^<-4>M paraoxonによっても阻害され, さらに基質にacctylcholineおよびphenyl acetateなどを用いたpH-indicator法によっても検出されるところから, この活性帯はおそらくcholinesteraseであると考えた.一方, 発育段階の違いとesterase zymogramの差異との関連についてしらべた結果, 肝臓特有のL-活性帯は孵化前2日, 1日のものでは雌雄の区別なくすべての個体において認められず, 孵化当日になってはじめて現われたが, その活性は極めて弱く10日齢以後ではじめて40日齢以後の成熟個体の活性と同程度にすべての個体において観察された.3)膵臓では11本の活性帯が検出されたが, これらの活性帯の現われ方にも個体による変異が認められた.そして, 移動度のもっとも早いバンド1は, 膵臓にのみ存在する活性帯(P-活性帯)であることが判明したが, この活性帯はすべての個体に存在するものではなく, 少数個体では存在しないものも観察された.つぎに10^<-3>M eserineによっては, 移動度のもっとも遅いバンド10と11のみその活性が抑えられ, またpH-indicator法による検出結果からも, この活性帯はcholinesteraseであることが推察された.さらに, 発育時期の違いとesterase活性の差異との関連についてしらべた結果, 膵臓においては孵化前2日, 1日, 孵化当日および5日齢のものでは, 膵臓特有のP-活性帯は認められず10日齢以後において発現する個体が得られた.4)腎臓および筋胃におけるエステラーゼ活性は, 前述した肝臓や膵臓の場合と比較してその活性帯の数は幾分少なく, かつ肝臓や膵臓において観察されたcholinesteraseに相当する活性帯は, 両者ともその存在ははっきり認められなかった.しかし, 筋胃では少数の個体において各種臓器, 組織のうちでは移動性のもっとも早い筋胃特有の活性帯(G-活性帯)が存在することが確かめられた.さらに腎臓と筋胃では, 肝臓にみられるL-活性帯と同じ活性帯がともに少数の個体において観察された.そしてこれらの活性帯の発現に関しては雌雄差は認められなかった.5)成熟雌, 雄各100個体の血清におけるnon-specific esteraseをしらべた結果, そのエステラーゼ活性を5つの基本型に大別することができた.そしてこれら5つの基本型を示す活性帯以外にも, 他の活性帯が検出されたが, この活性帯の発現する場所および活性帯の数には個体による変異が著しく, しかもこれらの活性帯は基本型の各活性帯にくらべてその活性は弱かった.さらに雄では移動度の極めて高い活性泳動帯(S-F活性帯)が1本全個体において認められたが, 雌ではこのような活性帯は存在せず, この活性帯に関しては明瞭な雌雄差が認められた。つぎに5つの各型のうちそれぞれ共通に存在する移動性のもっとも遅い活性帯と雄にのみ強く発現する移動度の極めて高い活性帯は, 10^<-3>M eserineによって阻害をうけるところから, この活性帯はおそらくcholinesteraseであると推察した.6)S-F活性帯の発現に関する雌雄差について更に検討するために, 60日齢の雌雄各個体の血清について, acetylcholineを基質としてpH-indicator法によりcholinesteraseの分離, 検出をおこなった結果, 血清には陽極側に移動する移動度の極めて高い活性帯(S-F活性帯)と移動度の低い活性帯(S-S活性帯)とが存在することが判明し, しかもこのS-F活性帯は雄にのみ強く発現し, 雌ではその活性が弱いことが確かめられ, cholinesterase活性の強弱に関して明瞭な雌雄差があることが明らかとなった.さらに, 精巣あるいは卵巣の割去とこれら去勢した雌雄各個体および無処理雌雄各個体に, 雌性あるいは雄性ホルモンを注射した実験結果などから, このS-F活性帯の発現に関しては雄性ホルモンは積極的に関与しているとは考えられず, むしろ雌性ホルモンの分泌がこの活性帯の発現を抑える作用を有しているものと考えた.
- 鹿児島大学の論文
- 1966-12-26
著者
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橋口 勉
鹿児島大 農
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武富 萬治郎
家畜育種学研究室
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武富 萬治郎
Laboratory of Animal Breeding
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橋口 勉
Laboratory of Animal Breeding
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岡本 悟
Laboratory Of Animal Breeding
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