紀伊半島の潮岬周辺海域から得られたカンザシゴカイ類(多毛環虫類)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
「南アルプスと紀伊半島を中心とする地域の自然史科学的総合研究」の初年度として, 1978年7月に紀伊半島の南端に位置する潮岬周辺海域で海産無脊椎動物相の調査を行った。潮岬の西側のアンドノ鼻付近と住崎海岸ならびに有田町の錆浦付近の海岸で磯採集を行い, また潮岬を中心とした東西両海域で海底の状態が許す限りドレッヂ採集を行った。その結果, 各動物群にわたる多くの種類が得られたが, ここでは多毛環虫類のウズマキゴカイ亜科を除いたカンザシゴカイ科 (Serpulidae) の種類が研究された。研究の結果, 15属, 35種が認められ, そのなかに1新属新種 Semiserpula longituba, 3新種, Serpulajaponica, Filogranula exilis, Paraprotis pulchra が含まれる。Filogranula 属は現在まで日本から知られていなかった。また, Serpula vittata, Metavermilia nates, Janita fimbriata の3種は日本から初めて報告された。被告された35種類のうち, Scrpula vittata, Serpula cf. kaempferi, Hydroides tambalagamensis, Hydroides exaltata, Hydroides tuberculata, Hydroides albiceps, Metavermilia acanthophora, Spirobranchus latiscapus, Spirobranchus giganteus corniculatus, Pomatoleios kraussii の10種ガインド・太平洋域に広く分布しており, Serpula vermicularis, Hydroides dirampha, Hydroides elegans, Hydroides ezoensis, Vermiliopsis infundibulum/glandigera-group, Vermiliopsis labiata, Metavermilia nates, Janita funbriata, Spirobranchus cf. polytrema, Spirobranchus tetraceros, Placostegus tridentatus, Ditrupa arietina, Josephella marenzelleriの13種は地中海, 太西洋を含む広い海域に分布している。そして, Hydroides fusca, Hydroides fusicvla, Hydroides multispinosa, Pseudovermilia pacifica, Semivermilia elliptica, Metavermilia ovata, Metavermilia spicata, Metavermilia influta の8種に4新種を加えた12種が現在のところ日本固有種であり, これは全種数の約1/3にあたる。日本産の Hydroides 属には IMAJIMA (1976,1978) によって 13 種類報告されているが, 潮岬付近の海域からは Hydroides externispina, H. minax. H. longispinosa の3種を除いた10種が得られている。しかし, これらの3種はいずれも潮岬より南方海域で得られており, 海流の状熊からこの海域における今後の調査で採集される可能性が充分たかい。現在までに黒潮海域でなされた自然史科学的総合研究で, カンザシゴカイ科(ウズマキゴカイ亜科を除く)の種類は種子島から13種, 伊豆大島・新島から25種, 黒潮反流域の小笠原諸島の父島では18種報告されており, これらに比較して潮岬の35種は最も種数が多い。しかし, 各海域での採集条件や採集量は必ずしも等しくなく, また, いずれもただ1回だけの調査であるからここに現れた種数だけでその海域を特徴づけることは無理と思われるが, 黒潮が直接ぶつかっているこの海域で種数が多いことは充分うなずけるところである。
著者
関連論文
- 相模湾と相模灘産多毛環虫類
- チスイビル Hirudo nipponia Whitman の眼寄生例
- トラック諸島,ポナペ島,マジュロ環礁と他のインド・太平洋域のカンザシゴカイ類(多毛類)(北赤道海流域における海産動物相調査報告 : II.1982年6〜8月の調査によるトラック請島,ポナペ島とマジュロ環礁のサンゴ礁動物相の研究)
- 17 チスイビルの眼寄生例
- Fauvelによつて報告された三崎及び瀬戸産シリス類(多毛類)の再検討
- 北陸・山陰地域の自然史科学的総合研究
- 1. 学会の50年間を振り返って(日本動物分類学会第36回大会講演抄録)
- 日本動物分類学会発足50周年記念特別寄稿 : 日本動物分類学会年譜
- 厚岸湾の多毛環虫類
- 猿払海域の多毛環虫類
- ドレッヂにより得られた大島海峡と焼内湾(奄美大島)のスピオ科の多毛類
- 石狩湾の多毛環虫類
- ナウール,ギルバートおよびソロモン両諸島から採集されたカンザシゴカイ類(多毛類)(北赤道海流域における海産動物相調査報告III.1984年7〜9月の調査によるナウール,ギルバート諸島およびソロモン諸島のサンゴ礁動物相の研究)
- 皇居の貧毛類
- 伊豆半島下田周辺の多毛類
- 伊豆諸島の新島と大島周辺海域から得られたカンザシゴカイ類(多毛環虫類)
- 付着生物中にみられる多毛類の季節的消長
- 男鹿半島周辺海域のカンザシゴカイ類(多毛綱)の種類と分布
- 紀伊半島の潮岬周辺海域から得られたカンザシゴカイ類(多毛環虫類)
- 宮古湾内の多毛環虫類相
- 多毛類によるトコブシ殻穿孔--主にPolydora属の種類について
- 対馬周辺海域から採集された遊在性多毛類
- オホ-ツク海沿岸,特に網走海域のホタテガイにおける穿孔性多毛環虫Polydora属の侵蝕状況
- 北海道東部の自然史科学的総合研究実施の目的と平成4年度調査研究の成果
- パラオ諸島とヤップ諸島から得られたカンザシゴカイ類(多毛類)(北赤道海流域における海産動物相の調査報告 : I.1980年6〜7月の調査によるパラオとヤップ諸島のサンゴ礁動物相の研究)
- コロール島の「パラオ熱帯生物研究所」跡に立って
- 小笠原諸島の父島周辺海域から得られたカンザシゴカイ類(多毛類)
- 種子島周辺海域のカンザシゴカイ類
- 様似沖刺網漁場周辺における底生性多毛類の生物量
- 淡水産多毛環虫類について
- 九十九湾とその周辺の遊行多毛類(予報)
- 相模灘から得られたPogonophora数種(予報)
- 本邦産シリス科Autolytus属の種間における器官の比較(分類・形態)