小笠原諸島の父島周辺海域から得られたカンザシゴカイ類(多毛類)
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概要
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伊豆・マリアナ弧諸島の自然史科学的総合研究の一環として, 小笠原諸島の父島・兄島・弟島・西島の各地で磯採集ならびにその周辺海域でドレッヂによる海産無脊椎動物相の調査を行なった。採集した多くの動物のうちから多毛環虫類のカンザシゴカイ科(Serpulidae)の種類が研究された。カンザシゴカイ類は石灰質の管を作って, 石・貝殻または死んだイシサンゴ類などの上に固着して生活するものであって, 幼生期の浮遊生活の時代に分布が拡がる。しかし, ある場所で船底に付着したものが, そのまま他の場所に運ばれ, 丁度生殖時期であれば, その場所で幼生が定着するという人為的な分布も考えられる。 この地方で明らかにされた9属, 18種には2新種, Metavermilia spicata, Metavermilia inflata, 1新亜種, Protula tubularia caeca, ならびに5日本新記録種, Serpula watsoni, Crucigera tricornis, Vermiliopsis labiata, Pomatostegus stellatus, Spirobranchus cf. polytremaが含まれる。また, Crucigera, Pomatostegusの2属は現在まで日本で報告されていなかった。 報告された18種類のうち, Serpula watsoni, Crucigera tricornis, Hydroides exaltata, Metavermilia acanthophora, Pomatoleios kraussii, Spirobranchus latiscapus, Spirobranchus cf. polytrema, Spirobranchus giganteus corniculatusの8種はインド・太平洋に広く分布している。また, Serpula vermicularis, Hydroides elegans, Vermiliopsis infundibulum/glandigera, Vermiliopsis labiata, Pomatostegus stellatusの5種は地中海, 大西洋を含む広い海域に分布している。そしてHydroides fusca, Hydroides longispinosaと新たに記載された2新種, 1新亜種の合計5種が現在のところ日本固有種であり, 小笠原特産種は2新種と1新亜種になる。従って, 小笠原諸島の海域におけるカンザシゴカイ科の2/3以上が, インド・太平洋, あるいは世界に広く分布していることになる。しかし, 黒潮によって支配されている日本の沿岸で豊富に見出されるHydroides albicepsがいまだ発見されていないことは, 黒潮支流から南下するいくつかの反流による種類の分散の程度があまり強いものでないと推察される。一方, ミクロネシアに端を発する北赤道海流の分流がマリアナ諸島を経由して北上し, その一部が小笠原諸島付近に達するが, ミクロネシアやマリアナ諸島海域の多毛類相が未調査なためにこれらの海域と比較検討することができない。 東京湾, 大阪湾, 広島湾, 長崎湾やその他の大きな湾でかなり有機物が多く含まれ, 水質が汚濁されている湾奥に生息しているHydroides elegansが, 二見湾の清瀬付近で見出されたのは非常に意外であった。これは, 東京-小笠原間の船底について運ばれたものが定着したと考えられる。そして, 清瀬付近はすでにこの種類が生息できるような海水になっていることであり, 将来の二見湾の自然保護のために適切な処置の検討が講じられなければならない。
- 国立科学博物館の論文
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