ヒメドコロの2倍体と4倍体の分布と化学成分
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概要
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ヒメドコロの4倍体は,紀伊半島では,熊野市鬼ケ城から新宮を経て,熊野川と十津川を遡って吉野に達する線の西側に,2倍体は北山川と吉野を結ぶ線の東側に見出された(Fig. 2)。しがたって両者の分布城の境界線は今回未調査の大峰山塊中にあると考えられる。吉野では下の千本から上の千本に至る丘陵から東には2倍体が,その西側の谷から西には4倍体が生育している。境界線はここで吉野川を横断して北上し,高取山の東の芋ガ峠付近では多少混乱しているが,それ以北では比較的はっきりしていて,4倍体は明日香村東部の山地には侵入せず,多武峰西北の山地に4個体発見されただけである(Fig. 3)。境界線はその後,長長谷寺付近から少し東北に進んだのち,天理,奈良両市と上野市のあいだに広がる山地のほぼ中央部を北進して笠置山の東麓に達し,木津川の北岸に出たのち東方に転じ,上野市付近では再びやや混乱するが,その後は木津川の上流に沿って東進している(Fig. 4)。この線は鈴鹿山脈に対してはその分水嶺の上を北進し続けるということはなく,水沢峠付近で山脈を横断する形をとっている。今回の調査の結果では,前述の芋ガ峠と上野市周辺の2カ所以外では,この線を越えての出入は認められなかった。特に1カ所で採取した検体のなかに両者が発見されたのは,上野市東方の喰代(ほうじろ)だけで,ここでは4個体のうちNo. 1936だけが4倍体で,残りは2倍体であった(Fig. 4)。2倍体はこのほかに九州の鹿児島県南部と寄崎県五カ瀬町でも発見されたが,九州での調査は不十分であるため,両者が連続して分布しているのか,隔離しているかは明らかでない(Fig. 1)。成分については,取扱い不注意のため実施できなかった一部を除いて,大部分の検体について調査し,ステロイドサポゲニンと染色体数の対比を行なった結果,4倍体も2倍体も地下部には同様にサポゲニンを含有しているのに,地上部には4倍体のみが含有しているというこれまでの実験成績とほぼ一致する結果を得た。すなわち4倍体は,367検体のうち5検体以外は薄層クロマトでサポゲニンのスポットを検出することができ,この5検体についても含量が低くて検出できなかったという可能性もある。ただし2倍体では358検体の大部分でサポゲニンを検出しなかったが,12検体ではサポゲニンを検出し,そのうちの2検体(1検体は4倍体が混入した可能性も完全には否定できない)からはdioti-geninの結晶を分離したから,2倍体のなかにも地上部にサポゲニンを含有している固体のあることが明らかになった。4倍体のサポゲニンの薄層クロマトのパターンはほぼ一定していたが,それから外れるものもあり,それらは九州で発見された。ヒメドコロとオニドコロは形態的にも成分の面でもよく類似し,近縁の植物と考えられるが,染色体数と成分からみて,ヒメドコロはオニドコロよりヘテロの要素を持った植物と考えられる。ヒメドコロの種子には翅があり,風で或程度運ばれる可能性があるが,その2倍体と4倍体はよく住み分けていて混在は少く,しかも両者の境界線は吉野川や鈴鹿山脈を横断するという興味ある走りかたをしている。その分布には何か未知の要素が関与しているのであろう。
- 1980-11-10
著者
-
赤堀 昭
塩野義製薬株式会社研究所
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赤堀 昭
小太郎漢方製薬
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岩男 徹
塩野義製薬油日ラボ
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奥野 勇
(元)塩野義製薬株式会社研究所
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奥野 勇
塩野義製薬株式会社研究所
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山下 善見
塩野義製薬株式会社油日ラボラトリーズ
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武内 康義
塩野義製薬
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安田 郁夫
塩野義製薬KK.研究所
-
武内 康義
塩野義製薬株式会社研究所
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岩男 徹
塩野義製薬株式会社油日ラボラトリーズ
-
安田 郁夫
Shionogi Research Laboratories Shionogi & Co. Ltd.
-
辻 迢
塩野義製薬株式会社油日ラボラトリーズ
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