社長および各界リーダーのインタビュー・サーベイ(22) : 早稲田大学総長,大日本印刷社長,花正社長,丸広百貨店社長,日製産業社長,宇部興産会長,明治生命保険社長,東京製鐵社長,名鉄丸越百貨店社長,東伯農協組合長,名古屋銀行頭取,大野市農協組合長,大正製薬社長,大塚製薬社長
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概要
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今回のサーベイは,次のような環境の下で行われた。1〜4月頃までは景気は回復基調にあると,政府,ジャーナリストに言われていたが,実態はそれ程回復せず,6月になったら足踏状態と言わざるをえなくなり,各企業の経営者は一般論的なリストラ,リエンジニアリングでは対応できなくなった。各企業経営者の対応は各企業ごとの強みを強化し,弱みから思い切って撤退すること,すなわち個性化の一層の深化に力を入れていることである。その個性化の方向を的確にとらえるために,一歩踏み出して情報を収集し,迅速な対処行動をとる。この個性化,積極的情報収集・迅速な行動がこの期の特色である。金融機関のように独自の個性化を出し難いところは,以前よりましてきめ細かな資金管理に力を入れている。また今回の調査には,積極的な経営を行っている,一般企業とは異なった農協についても調査した。農協と一般企業の経営の仕方の最も異なるところは,前者の経営の目的が赤字にならないという制約条件の下で社会的貢献を最大にするのに対し,後者は一定の社会貢献,企業倫理の制約の下で利益・成長を最大にすることであった。<大学>早大総長は,大学の変革は非常に難しいという。民主的手続き・根本的・百年の計という口実で改革に反対する。これに対して従来の延長ではなく,大学の理想をかかげて予算の傾斜配分を行い,突出部分を育てていく。人事で中途採用は易しいが中途追放は難しい。<製造業関係>[大日本印刷];海外進出の必要はない。自社の強みは,顧客の近くに立地していること,シャドウマスクの製造などは装置産業であって人件費に関係ないからである。[宇部興産];従来から事業部ナショナリズムが強かった。個性化をすすめるために,強い事業部はさらに強く,弱い事業部からは撤退する。人事は公平に,財務はアンバランスに,をモットーにする。[東京製鐵]:高炉メーカーとの競争激化。高炉メーカーが価格維持をはかっている分野に進出して,逆に高価格品を売る。当社の1人当りの生産性は5,000トン,高炉メーカーは700トン。十分に競争できる。[日製産業];技術水準が高く海外で生産できない製品は値上げする。日本以外でできるものは生産中止。異能の個性的な人間は1人で仕事をさせる。それをトップが長期的に支援する。[大正製薬]:リポビタンDを中心に大衆薬の販売促進や,新しい効果をもった大衆薬の開発に力を入れる。この大衆薬の研究開発,販売促進にはつねに社長が直接指揮をとる。社長のチェックポイントはあくまで生活者の立場からであり,その薬の将来の発展性がその立場からチェックされる。[大塚製薬];研究所が独創的,革新的な製品を開発できないのは,研究組織中央の大きなミッションに力があるすぎること,および,専門研究者がその専門にこだわりすぎること,とによる。これからは遺伝子研究所に注力する。遺伝子によって発ガン性物質をコントロールする酵素の発生が異なるから,個体の病気予防に役立つ。<流通業関係>[丸広百貨店];カジュアル百貨店という個性を明確にし,都心百貨店と,地域DSとの中間をねらう。価格は中間でも感性,品質は高いものを開発する。この戦略を実行しながら情報を収集し,つねに新しい方向を探していく。[名鉄丸越百貨店];百貨店晩めし論強調。スーパーは昼めし。予め価格をきめておいてその範囲内でおいしいものを探す。晩めしは,おいしくて,雰囲気がよく,楽しいことが第1条件。その条件のもとで安いものを探す。またスーパーは不特定多数の客を取扱うが,百貨店は特定多数の客。[花正];まず一歩を踏み出す。そして新しい視点にたち情報をとり,最適な方向をつかむ。最初に成功した着眼点は業務用食材スーパーの展開であり,次に成功した着眼点は中国進出であり,それを足掛りにして世界展開を考えている。<金融・保険関係>[名古屋銀行];土地問題に抜本的なメスを入れなければ,不良債権問題は解決しない。金融自由化の本格化で,金融機関同士の競争は弱肉強食になってきた。対処策は,金を集めるときは運用までも予め考えるALM管理などのきめこまかい金融業務。[明治生命];逆ザヤ現象と金融の自由化というマクロ問題に直撃され,日本の金融は世界単一市場化の方向に自然に流れていく。株式,不動産の含み益がなくなった現在,個性的な戦略はたて難い。長期的な自由化に対処するために,損保,証券スキルの教育に力を入れている。<農協関係>[東伯農協];農協の目的は赤字にならない範囲内で社会的貢献を最大にすることである。社会的貢献,企業倫理を制約条件として利益,成長の最大化を目ざす一般企業とは異なる。そのためには,集約農業,遺伝子融合などの新技術情報・新市場情報を積極的に収集し,迅速に実行する。[大野市農協];制約条件として最低配当率をきめ,そこから逆算して事業計画をたてる。一般企業の経営とは逆である。一農場方式を標榜し農業をやらない農家から農地を借り,農業専門家を雇い,高品質米を生産する。組合長はつねに地域集会に出席し,組合員に接触しこの一農場方式についての理解を求める。
- 慶應義塾大学の論文
- 1995-12-25
著者
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