経営者の人事評価(II) : 経営者能力

概要

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社長に不可欠な能力の一部にでも欠落があると,企業経営はたちまち破錠をきたしてしまう。経営者の人事評価は,その不可欠な能力に欠落部分,不足部分があるか,という視点から行われる。経営者能力とは,将来構想の構築・経営理念の明確化,戦略的意思決定,執行管理,の3つの機能を遂行するための能力である。望ましい経営者能力は普遍的なものではなく,状況適合的,条件的なものである。経営者能力は,企業家精神に関連する能力,管理者精神に関連する能力,リーダーシップ能力の3つに分かれる。企業家精神とは,不連続的緊張にたえうる能力であり,管理者精神は連統的緊張にたえうる能力であり,この2つを高い視点から止揚統合したのがリーダーシップ能力である。経営者はその企業の成長段階,規模,主力製品の産業構造変化への適合度などによって,経営戦略を変えていく。この経営戦略の策定,執行を効率的に行い,企業の活性化,個性化を推進し,企業業績を向上させている経営者が高く評価される。創業期には,「野心」「直観力・カン」で将来構想をたて,新技術・新市場を開発する戦略を策定し,実行する企業家精神の旺盛な経営者が高く評価される。成長期には,企業規模も大きくなるから,企業内に整合性を保つための「相手の立場にたってものを考える能力」や,直観だけでない「洞察力」,全体を考える「システム思考」などの管理者精神をもつ経営者がより高く評価される。安定期になり,規模もますます大きくなると,経営者は経営理念の前提となる「哲学」や,さらに「人柄」「品性」などのリーダーシップ能力が求められる。そして,さらに再成長期になると,従来の大規模企業は,ゆるやかに統合した関連会社の集合体になる場合が多く,各関連会社の新しい社長は,創業期の企業家精神とは一味違った,リーダーシップ能力と結びついた,企業家精神,たとえば「品性」と同時に「野心」が結びついた能力が求められる。これが変革期で最も強く求められる経営者能力である。
慶應義塾大学の論文
1995-10-25

著者

清水龍瑩
慶應義塾大学商学部

経営者の人事評価(II) : 経営者能力

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