稻黄化萎縮病に関する研究(第 2 報) : 苗代の第一次伝染源としての禾本科雜草
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概要
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1. 苗代開始期に当る4月下旬乃至5月上旬頃に発生してゐる禾本科植物の黄化萎縮病罹病状況を, 京都, 滋賀, 福井の3県下に於て調査した結果, 罹病が発見せられたのはコムギ, オホムギの作物2種, カズノコグサ, スズメノテツポウ, カモジグサ, スズメノカタビラ, オホイチゴツナギ, ミゾイチゴツナギ, ヌカボ, ムツヲレグサ, クサヨシ, マコモ, ヨシ, スズメノヒエ, ススキの雑草13種で, 何れも越年生或は多年生の禾本科植物であつた。2. カズノコグサ, スズメノテツポウ, クサヨシ, スズメノカタピラ, カモジグサなどの発生頻度は頗る高い。3. 苗代開始期に当りこれ等の植物は既に充分生育してをり, 越年生雑草は出穂期或は穂揃期に達してゐた。4. 発見された罹病雑草は, 水田中, 畦畔, 溝川中, 路傍, 堤などに生育し, 苗代に対して直接間接に影響することが出来る。5. 禾本科雑草の主なるものの病徴を記載した。6. 本病罹病葉は水中に投ずれば間もなく游走子嚢を形成し, 且つ引続いて発芽を行い游走子を逸出し, 更にその発芽管で植物体に対し侵入する。稲幼芽と共にカモジグサ罹病葉を水中に保ち, 水温と稲幼芽の感染との関係に就て実験した。その結果12°∿13℃の水温にて13%の罹病苗を生じ, 接種の最低限界温度は12℃より遥に低いところにあり, 又接種の最高限界温度は26℃と29℃との間にあることを明かにした。尚26℃にて7%の罹病苗を生じた。又18°∿19.5℃が最適の接種温度で23.7%の罹病苗を生じた。7. カモジグサの罹病葉を種々の水温中で20時間浸漬した場合の游走子嚢の発芽に就て調べたところ, 12°∿13℃にて61%, 18°∿19.5℃(最適)にて86.6%, 29℃にて0.6%の発芽率を示した。故に発芽の最低限界水温は12℃より更に低いところにあり, 又最高限界水温は29℃附近と思はれる。8. スズメノテツポウ, クサヨシ, カズノコグサ, カモジグサの罹病葉を以て, 稲の幼芽に対する接種時間と感染との関係に就て実験してみたが, 5時間の接種区にてクサヨシを除く他の何れに依るも既に相当の感染が起り, 又15∿20時間の接種区にて旺盛な発病を示した。9. カモジグサの罹病葉の水中浸漬時間と游走子嚢の発芽との関係に就て実験したが, 発芽率は5時間にて15.4%, 20時間にて81.3%に達し, その後一時減少し, 更に再び増加して72時間にて90.3%に達した。10. 京都府加佐郡大江町の本病常発地帯に於ける苗代開始期当初の気象に関して調査した結果, 気温, 水温, 降雨量などは, 禾本科雑草の罹病葉上に游走子嚢を形成且つ発芽せしめて, その游走子に因る稲幼芽の感染を起す為にはまことに好適な状態にあつた。11. 福井県丹生地方の気象観測に依ると, 1953年に於ける9月の降雨量は10月及び11月の何れよりも遥かに多かつた。又その秋季中に於ける降雨の日の気温は概して黄化萎縮病菌の活動に対して好適である。故に越年生雑草は総て前年秋の降雨の際に感染したものと推定せられる。12. 苗代に対する黄化萎縮病の第一次伝染源として, もとより卵胞子の発芽は軽視出来ないであらうが, 越年生或は多年生雑草の方がはるかに重視せらるべきものと思はれる。
- 京都府立大学の論文
- 1954-09-01
著者
-
土倉 亮一
京都大學大學院農學研究科
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桂 [き]一
西京大学農学部植物病学研究室
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土倉 亮一
西京大学農学部植物病学研究室
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古家 民生
西京大学農学部植物病学研究室
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桂 一
京都府立大学農学部植物病学研究室
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