南極産クマムシMacrobiotus harmsworthiとセンチュウPlectus antarcticusの耐凍性
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概要
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東南極に位置するラングホブデ露岩域の雪鳥沢で採取した蘚類を-20℃で冷凍保存して日本に持ち帰り(約10ヵ月にわたる保存中の生存率はクマムシで49%, センチュウで58%), その中から抽出したクマムシ(Macrobiotus harmsworthi J. MURRAY)およびセンチュウ(Plectus antarcticus DE MAN)を-10℃から-80℃まで冷却し, -10℃, -18℃, -32℃, -40℃, -80℃における耐凍性を調べた。その際, -10℃から-40℃までは, 自然条件下での蘚類内温度の変化に近似させるため極めて遅い速度で冷却し(2℃/日), -40℃から-80℃にかけてはやや急速に冷却した(20℃/時)。耐凍性の目安として, 融解して2時間, 4時間, 2週間および5週間後の活動個体の割合(RA値)を求めた。クマムシの耐凍性は非常に高く, -80℃まで冷却された個体のほとんどが乾眠状態で生存し, RA値は融解2時間後で100%, 5週間後でも86%に達した。-40℃, -32℃まで冷却された個体もほぼ同様の傾向を示したが, -18℃と-10℃までしか冷却されなかった個体ではRA値がやや低く, 融解2時間後でそれぞれ75%と70%, 5週間後で40%と60%にすぎなかった。センチュウの耐凍性も高く, 融解4時間後におけるRA値は, -32℃冷却個体における46%を除くと, 79%(-80℃冷却)∿100%(-10℃冷却)に達した。しかし, 以後急速に死亡個体が増加し, 2週間後のRA値は0%(-10℃, -18℃冷却), 11%(-32℃), 5%(-40℃), 3%(-80℃)にすぎず, 5週間後には全個体死亡した。以上のように, クマムシ, センチュウともに, 高温冷却個体より低温冷却個体の方がやや高い耐凍性を示しているが, この高い耐凍性が極地環境においてこれらの種の生存を可能としているものと考えられる。
- 国立極地研究所の論文
著者
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大山 佳邦
国立極地研究所
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菅原 裕規
北海道大学環境科学研究科
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丹野 晧三
北海道大学低温科学研究所
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福田 弘巳
北海道大学大学院環境科学研究科生態系管理学講座
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福田 弘巳
北海道大学大学院地球環境科学研究科
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