北海道勇払地方における安平川河道閉鎖後の残存フェン群落の種組成と分布パターンの変化
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概要
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北海道勇払地方の安平川湿原はこの地方で最大のフェンの面積を有しているが、現在、開発と保全の問題に直面している。安平川湿原について、勇払地方にある他の7か所の湿原とあわせ、群落の種組成と環境条件の比較を行い、安平川湿原の特徴を検討した。TWINSPANの結果、安平川湿原以外の7湿原の湿生自然草原群落は氾濫原湿原のA(イワノガリヤス)群(A1:ツルスゲ-イワノガリヤス群落型、A2:オオアゼスゲ-イワノガリヤス群落型)と谷湿原のC(ムジナスゲ-ワラミズゴケ)群(C1:ワラミズゴケ群落型、C2:ヤチスゲ-ムジナスゲ群落型、C3:ヌマガヤ-ムジナスゲ群落型)に分かれた。一方、安平川湿原の植物群落は、氾濫原湿原のA群と他の湿原ではみられないB(ヒメシダ)群(B1:イワノガリヤス-ヒメシダ群落型、B2:ムジナスゲ-ヒメシダ群落型)が見出され、A群のうちではA1群落型が主に優占していた。B1群落型の構成種はA群との共通種が多く、海岸砂丘種や中生の外来植物も含まれていた。また、B2群落型の構成種はA群とC群それぞれの共通種が多かった。安平川湿原では1975年に高水位の場所に成立する谷湿原のC2群落型や半冠水状態で生活する植物の群落が存在していたが、今回の調査ではこれらの群落が消滅していた。安平川湿原で確認された群落型の水文化学環境は、水位はB1群落型とB2群落型で特に低く、ECはB2群落型で特に低かった。pHはB1群落型で高く、B2群落型で低い傾向があった。安平川湿原は1956年の河道変更によって河川水の供給が遮断されたことにより、氾濫が停止し水位低下が起こったものと推定される。水位低下によって、特に比較的乾燥した立地で生育するヒメシダが優占するB群が拡大した可能性が高い。またB2群落型の優占種であるムジナスゲは酸性で貧栄養な環境で優占するので、氾濫の停止による貧栄養化、酸性化によって拡大したと考えられる。湿原内のハンノキ林面積は29年間で約1.5倍に拡大し、その分フェンは減少していた。水位低下やそれに伴う水文環境の変化もハンノキ林の拡大の一要因とみなされる。湿生自然草原群落の減少・劣化が認められたものの、勇払地方で最大面積のフェンが現存し、他の湿原では見られない種を含む独特のフェンを有する安平川湿原の保全は必要であり、水文環境を河道変更以前の状態に近づけることが群落の保全・修復にも有効である。
- 2010-05-30
著者
-
永美 暢久
北海道大学大学院農学研究院森林・緑地管理学講座森林生態系管理学分野
-
矢部 和夫
札幌市立大学デザイン学部空間デザインコース
-
中村 太士
北海道大学大学院農学研究院森林・緑地管理学講座森林生態系管理学分野
-
中村 太士
北海道大学大学院 農学研究院
-
矢部 和夫
札幌市立大学
-
中村 太士
北海道大
-
永美 暢久
北海道大学大学院農学研究院森林・緑地管理学講座森林生態系管理学分野:(現)株式会社環境調査技術研究所
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