1-Naphthylacetic acid(NAA)による早生温州ミカンの摘果に関する研究
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概要
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本研究は,NAAによる早生温州ミカン幼果の摘果に関する作用機構について栽培学的見地に立って明らかにしたものである.1.温州ミカン幼果の着果,収穫果実の形質におよぼすNAA処理の影響1)NAAの処理濃度に関する試験の結果: NAAの摘果効果と処理濃度との関係は, 0.175×10^<-3>Mから4.0×10^<-3>Mの間で,処理濃度に比例してS字型曲線を示して増加した.2)NAA処理による摘果効果試験の結果:(1)NAAの処理効果は,300ppm(約1.5×10^<-3>M),満開30日後処理で適当であったが,処理条件等によって変動を示した.(2)NAAの処理効果は,生理落果の影響を受け,生理落果の続いている期間中の処理によって助長された.(3)50ppmから600ppmの範囲内でNAAを処理した結果,温州ミカン枝葉,幼果に対する薬害,収穫果実ならびに翌春の萠芽,着花への悪影響は,これを認めなかった.2.NAA処理による摘果の経済効果について.(1)NAA処理による(300ppm,満開30日後)落果助長効果が7%〜18%のとき,NAA処理区の人手による手なおし摘果果数は,無処理区に対して30%〜50%軽減された.(2)この結果,人手による摘果に要する時間は,対照無処理区に較べて,NAA処理区では,45%の軽減となった.(3)さらに,NAA処理によって早期摘果を実施した結果,人手による摘果によって失なわれた炭水化物および窒素の量は,無処理区に軽べて約47%軽減された.(4)従って,NAA処理による早期摘果の実施は,経済効果が大きい.3.NAA処理による温州ミカン幼果の摘果効果発現に影響をおよぼす要因を栽培学的見地に立って明らかにした.1)NAA処理による摘果効果の変動要因には,対象樹の栄養条件の違いと,NAA処理直後の環境条件の変異とが考えられる.2)NAAの処理効果に影響をおよぼす栄養条件には,(1)結果枝の樹冠内着生位置の違いと,長短などの形態な差異.(2)幼果の大小と,1果あたり葉数の多少等の違い.(3)結果枝および葉のC/N率等,体内条件の差異と,これに由来する生産物の幼果への補給の良否等がある.3)NAAの摘果効果は,結果枝の樹冠内着生位置が下部のもの,短いもの,C/N率の低いものに由来した幼果,1果あたり葉数の少ない幼果,果径が小さい幼果にそれぞれ高くなる傾向を示した.4)一方,温州ミカン葉へ処理したNAA-1-^<14>Cの処理葉への^<14>C吸収率は,葉齢では,若い葉,葉質では,C/N率の高い葉にそれぞれ高くなる傾向を示し,NAAの処理効果の高低とほぼ一致するものであった.5)NAA処理直後の環境条件で処理効果の変動要因となるものは,(1)温度の高低(2)湿度の高低(3)太陽光線照射の強弱等が考えられる.6)これらの環境条件が処理したNAA-1-^<14>Cの処理葉への^<14>C吸収におよぼす影響をみると,(1)低湿度条件下(45%)では,25℃から35℃の間で温度が高まると吸収量が増加し,(2)同一温度条件下では,45%から95%の間で,多湿になるほど吸収量が増加した.(3)この傾向は,圃場でのNAAの温州ミカン幼果の摘果効果の発現の様相と一致する.摘果効果をたかめる環境条件は,いずれも対象樹の栄養条件を低下させる要因となっているものである.7)温州ミカン葉に処理したNAA-1-^<14>Cの処理葉への^<14>C吸収率は,太陽光線の照射によっても影響が大きく,^<14>Cの処理葉への吸収率は,太陽光線の照射で暗所での約86%に低下し,全残存割合では,暗所の33%に低下した.4.NAAの作用効果の発現について1)温州ミカン葉へ処理したNAAの処理葉中ならびに幼果,結果枝,他の部位の葉への吸収,転流を^<14>C carboxyl基および^<14>C ring labelled NAAを用いて試験をおこない, ^<14>Cを定量することによって確認した.2)温州ミカン葉へ処理したNAAの処理葉への^<14>C吸収率は,0.125×10^<-3>Mから2.0×10^<-3>Mの間では,濃度に比例して増加した.しかし,それ以上の濃度では,吸収量に限界を示した.このことから,NAA自体の吸収,移行についても同様な傾向を示すものと推察される.3)NAAを直接吸収させたときの幼果の果梗からの離脱の度合は,0.175×10^<-3>Mから,4.0×10^<-3>Mの間で濃度に反比例した.4)以上の結果,幼果に関する摘果効果の程度の差異は,対象樹の栄養条件が同一の場合,NAAの吸収,移行量の違いによって起るものと考えられ,NAAの処理濃度の差もその要因となり得るものである.ちなみに,NAA-1-^<14>C (^<14>C)は,処理後2時間ですでに7%がとりこまれ,8時間でピークに達した.現在実用化されている300ppmの濃度では,そのおよそ10%〜20%が吸収されているものと考えられる.5)落果に影響をおよぼす基本的条件(後出)が幼果,結果枝に存在する場合,NAA処理が果梗部分の離層形成を誘起し,これによって,幼果の離脱が起ることを確認した.すなわち,NAA処理によって人工試験床では,およそ60時間後には,果梗部分の離層形成を誘起し,おそよ100時間で離脱が起った.これは,葉からNAAを吸収させたときの吸収に要する時間差から,圃場でのNAAの効果発現に要する時間とほぼ一致し,このことから,NAAが温州ミカン幼果の離層形成を誘起していると考えられる.5.以上,本研究での試験の結果,温州ミカン幼果に対する摘果剤NAAの作用機作は,栽培学的観点からすれば,次のようなものであると考える.1)NAA処理による温州ミカン幼果に対する摘果効果の発現は,基本的には,対象樹の栄養条件によって限定され,処理によって離層の形成が誘起された結果,起ったものである.それは,幼果の生理落果の状況によって影響され,第二次生理落果のピークが大きく,落果量が多くなるとNAAの摘要効果は高まるものである.2)次に,NAAの温州ミカン幼果の摘果効果発現に影響をおよぼす変動要因は,対象樹の生理落果の多少,着果枝の葉齢などの対象樹の栄養条件等,活力に係る諸条件,さらには,NAA処理直後の気温の高低,湿度の多少,太陽光線照射の強弱などによる対象樹の栄養条件の変化とそれに作用するNAAの吸収,移行量の多少であると考えられた.6.これを要するに,NAA処理によって適確な効果を得るには,栽培学的観点からすれば,対象樹自体の栄養診断が適確におこなわれること,次いで処理時期と地域の環境条件が対象樹の栄養条件,ひいては,摘果効果に影響することに鑑み,状況判断を適確にして処理をおこなうことが肝要と考える.
- 1976-11-30
著者
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