Rhizopus 属と細菌の連関作用によるフマル酸醗酵からコハク酸への転換醗酵 : (第2報) Rhizopus chinensis と Escherichia coli の組合わせ
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概要
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さきにフマル酸カルシウムを含む培地に, coli-aerogenes 群の細菌17株を培養し, フマル酸からコハク酸への転換能の最もすぐれた菌株として Escherichia coli AHU 1410 を選択し, さらに, コハク酸への還元に要する水素供与源として, 少量のグルコースの添加が極めて効果的であることを認め, それらの結果を第1報で発表した.そこでここでは, この転換に対する最適諸条件を検討したのち, Rhizopus 属かびのフマル酸醗酵に E.coliを組合わせて培養し, 最終産物としてコハク酸のみを得る連続転換醗酵を試みたので, その結果を報告する.まず E. coli によるコハク酸への転換の基質として, フマル酸のカルシウム塩, ナトリウム塩, カリウム塩およびアンモニウム塩を比較したところ, Fgi. 1のように, カルシウム塩を用いた場合最も速かにコハク酸への転換が進み, その収率は3日で67.7%, 5日で91.5%に達した. これに対してカリウム塩, ナトリウム塩, アンモニウム塩では, 培養7日後でさえ, それぞれ53.3%, 43.3%, 41.2%のコハク酸収率が得られたにすぎなかった.一方, カルシウム塩では, フマル酸の消費速度も最高であったが, 他のフマル酸塩類を加えた培地でも, コハク酸の収率が低いわりにはフマル酸が速かに減少していた. これは Table 1 に示したように, フマル酸カルシウムを基質とした場合には, リンゴ酸が認められないのに反し, 他の塩類ではかなりの量のリンゴ産が副生したためと思われる.以上の結果から, コハク酸への転換醗酵の前段階となる Rhizopus 属のフマル酸醗酵は, 炭酸カルシウムを添加した培地で行ない, 生成したフマル酸をカルシウム塩として蓄積するのが望ましいと考えられた.つぎにこの転換に対する E. coli の接種量を検討したところ, Fig. 2 のごとく培地 ml 当り 3.6×10^8の細胞数が最適であった.またフマル酸醗酵の培養液に E. coli を接種する適当な時期を決定するため, Rh. chinensis AHU 6508によるグルコースの消費と酸生成の経過を培養14日間にわたり試験したが, その結果は Fig. 3 に示したように, フマル酸収率は培養8日後最高となり, 糖も完全に消費されていた. したがってコハク酸への転換のためには, この時期に E. coli を接種するのが適当であろうと判定した.以上の結果をもとに, 炭素源としてグルコース10%を含む炭酸カルシウム添加培地で, まずRh. chinensis を7〜10日間静置培養し, 菌蓋除去後グルコース1%を加え, E. coli を接種, ひきつづき2〜4日間培養して, フマル酸醗酵からコハク酸への連続転換醗酵を試みた.その結果は Table 2 にまとめて示したが, フマル酸醗酵後 E. coli を3〜4日間培養すれば, 対始糖30%以上のコハク酸が得られ, そくに Rh. chinensis を8日間培養後, E. coli を4日間培養すると, あらかじめ Rhizopus によって生成されたフマル酸の91.3%相当がコハク酸に転換され, 最終産物としてコハク酸のみが対始糖35.8%もの収率で得られることが判った。フマル酸の収量は, 培養条件の改善や生酸能のより高い菌株を用いることによって, 一層増大させうると考えられ, その場合この種の転換醗酵を応用すれば, さらに著量のコハク酸を得ることも可能であると思われる.
- 社団法人日本生物工学会の論文
- 1970-12-25
著者
-
堀田 国元
北海道大学 農学部応用菌学教室
-
佐々木 酉二
北大農
-
佐々木 酉二
北海道大学農学部応用菌学教室
-
佐々木 酉二
北海道大学
-
高尾 彰一
北海道大学 農学部応用菌学教室
-
高尾 彰一
北海道大学
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