Rhizopus 属と細菌の連関作用によるフマル酸醗酵からコハク酸への転換醗酵 : (第1報) Coli-aerogenes 群細菌によるフマル酸塩からコハク酸塩への転換
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概要
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自然界においては, 微生物がただ1種類の純粋培養として見出されることは稀であり, 他の多くの微生物と種々の連関作用を営みつつ共存しているのが常である.しかるに従来の工業的な醗酵はほとんどすべて, 1種類の微生物を用いて行なわれており, 混合培養を応用した例は, α-ケトグルタル酸, グルタミン酸, アラニン, アセトンおよびブタノール, コバラミンなどの醗酵について報告されているにすぎない.ところで醗酵産物の中には, 容易に高収量で得られるにもかかわらず, その用途が限られているため, いまだ工業的規模で生産されていないものも少なくないが, そいのような醗酵に微生物の連関作用を効果的に応用すれば, ときには醗酵が転換され, より有用な代謝産物が得られる場合もあると考えられる.このような見地から, 著者らはRhizopus属かびのフマル酸醗酵にフマラーゼ活性の高い酵母, Pichia membranaefaciens を組合わせて培養し, フマル酸醗酵を効率よくL-リンゴ酸醗酵に転換しうることをすでに報告したが, ここではフマル酸醗酵をもっぱらコハク酸醗酵へ転換するため, その基礎実験として, coli-aerogenes 群の細菌の中から, フマル酸をコハク酸へ還元する能力の高い菌株を選択し, この転換に対する条件を検討したので, その結果を報告する.まず菌株選択のために, Escherichia coli 10株, Aerobacter aerogenes 6株, Aerobacter cloacae 1株を肉汁寒天斜面で32℃, 3日間培養した後, フマル酸4%, グルコース1%, (NH_4)_2SO_40.5%, K_2HPO_40.1%, MgSO_4・7H_2O0.05%, FeCl_3・6H_2O0.002%, CaCO_3 5%からなる培地40ml を加えた150ml 容三角フラスコに接種, 32℃で3日および7日間培養し, 培養液をエーテルで抽出後, Bulen らの方法に準じて溶出分析を行った.Fig. 1 に示したE. coli AHU 1410 のクロマトグラムでは, 基質として加えたフマル酸のピークが, 培養の経過とともに急速にコハク酸相当の位置に移動しているが, これと同じ様相は他のほとんどの菌株でも認められた.ただ E. coli AHU 1040 など2,3の菌株では, Fig. 2に示したように, コハク酸のほかにリンゴ酸相当のピークもかすかながら見出された.なおこれらの有機酸は, ペーパークロマトグラフィー, 結晶の融点などから, それぞれコハク酸, _L-リンゴ酸と同定した.溶出分析の結果から得た供試17菌株のコハク酸収率を Fig. 3に示した. これらの収率は基質のフマル酸がすべてコハク酸に還元された場合を100%として算出したものである.E. coli ではほとんどの菌株が, 培養7日後90%前後の高いコハク酸収率に達し, Aerobacter 属よりも一般に転換能がすぐれていた. とくに E. coli AHU1410 と 1521 は培養3日後でもコハク酸の収率が高かったので, これら2菌株による転換経過をさらに詳細に比較した結果, Fig. 4 のように培養のどの時期でもAHU 1410 の方がすぐれており, この転換には最良の菌株であると判定した.ところでこれまでの実験では, すべて培地にグルコース1%を添加して来たが, これは糖がフマル酸の還元のための水素供与源として有用であろうと考えたからである. このような糖転添加の必要性を確かめるため, さきの17菌株を糖を全く含まぬ培地で7日間培養し, その結果を糖添加の場合と対比して Table 1 に示した. 糖を含まぬ培地では, E. coli はどの菌株もコハク酸をほとんどまたは全く生成せず, それに反してかなりの量のリンゴ酸を生成するものが多かった.従ってフマル酸からコハク酸への効果的な転換には, グルコースの添加が不可欠であると思われた.Aerobacter 属の場合も, A. aerogenes AHU 1341のみが糖を含まぬ培地でも比較的多量のコハク酸を生成した以外は, E. coli と同様の結果であった.なお E. coli AHU 1410 を用いた場合, この転換に対するグルコースの最適濃度は1%であった(Fig. 5).つぎに各種の有機酸などを, グルコース1%に相当する0.056M の濃度でそれぞれ培地に加え, 水素供与源として糖に代りうるかどうかを試験したところ, Table 2のごとくグルコン酸をはじめ乳酸, ピルビン酸などもこの転換に有効であった. それ故, フマル酸からコハク酸への転換に対するさきのグルコースの著しい効果は, もっぱら水素供与のためと考えられた.
- 社団法人日本生物工学会の論文
- 1970-12-25
著者
-
堀田 国元
北海道大学 農学部応用菌学教室
-
佐々木 酉二
北大農
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佐々木 酉二
北海道大学農学部応用菌学教室
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佐々木 酉二
北海道大学
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高尾 彰一
北海道大学 農学部応用菌学教室
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高尾 彰一
北海道大学
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