MgO-Fe_2O_3 2成分系の高MgO領域におけるMgOssとMgFe_2O_4の2相共存
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
CaOをおよそ65mass%含むセメントの主要製造設備であるロ一夕リキルンでは,セメント原料の温度がおよそ1450℃にまで達する焼成帯と,その前後の脱着帯と冷却帯にはそれに対して化学的に安定な塩基性煉瓦の使用が必要である.そして,脱着帯及び冷却帯ではセメント原料中に少量の融液が含まれる温度条件になるため,塩基性煉瓦壁面でセメント原料が頻繁に付着とはく離を繰り返す.これに対して,焼成帯では多量の融液が生成するため,この壁面にセメント原料が比較的安定に付着する.このように,セメント製造時のロ一夕リキルン内部ではその部位ごとに特徴的な現象が起きるので,塩基性煉瓦にはそれぞれに対応する物理的及び化学的性質が求められ,適合しないときにはその損耗が激しく,寿命が短くなる.MgOとAl_2O_3を主成分とするマグネシアスピネル塩基性煉瓦は,マグネシアクリンカーとアルミナマグネシアスピネルクリンカーを主原料として,1700℃以上で焼成して製造される.この耐火煉瓦は熱衝撃に強く,セメント原料の付着とはく離に伴う温度変動が頻繁に起きる脱着帯と冷却帯で優れた耐久性を示す.一方,耐食性がマグネシアクロム煉瓦に劣るため,セメント原料中に多くの融液が含まれる焼成帯では使用が制限されるが,この欠点はFe_2O_3の添加により大きく改善される.更に,マグネシアクロム煉瓦にはCr_2O_3が含まれるが,その使用の過程でCr_2O_3の一部が6価に変化するため,環境保全の観点からこれに代わる塩基性煉瓦が望まれている.1961年Phillipsらは上記塩基性煉瓦に関係の深いMgo-Fe_2O_3 2成分系状態図を発表したが,1967年にWillsheeらによりこの状態図は部分的に改訂された.図1にはPhillipsらの2成分系状態図を破線で示し,Willsheeらが提案した境界線を実線で加えた.Phillipsらの状態図によれば,MgOssとMgOss+MgFe_2O_4の境界線は1010℃付近で温度軸に接する(以後,境界線端と表す).Willsheeらは30mass%Fe_2O_3以下の高MgO領域の検討はしていないが,相境界がより高温側にある可能性を示唆した.KatsuraとKimuraは1160℃におけるMgO-FeO-Fe_2O_3 3成分系状態図を,次にSpeidelは1300℃におけるこの系の状態図を発表した.図2と図3によれば,Wustite:FeO及びMagnesiowustite:(Mg_xFe_y)Oには2価と3価の鉄イオンが混在し,それらの比率は酸素分圧に依存するが,大気下ではそのほぼ全量が3価であることが分かる.したがって,(Mg_xFe_y)Oの表記において酸素の量を1とした場合,x+yは1より小さい値になる.以後,本研究ではMagnesiowustite:(Mg_xFe_y)OをMgOssと表すことにする.図2と図3の高MgO領域における境界線はいずれも破線で示され,確定していない.これは,上記3成分系の境界線は酸素の等圧線の変化から決められたが,高MgO領域では等圧線の変化がきわめて小さく,境界線が正確に決定できないためである.しかし,これらの状態図の境界線は1160℃では100%MgO付近に,また,1300℃ではMgO-Fe_2O_3線上に接する方向を示唆している.Phillipsらの研究は急冷法で得た試料をXRDで同定する方法で行われた.これに対して,高温XRDは所定温度における材料の状態を直接評価するので,急冷法より正確な情報を得ることができる.また,KatsuraらやSpeidelの研究手法に比べて,一層正確に相の状態を知る手段である.更に,相の状態ばかりでなく,高温下の格子定数を求めるのにも適している・本研究では,セメントロータリキルンの焼成帯に使用するFe_2O_3を添加したマグネシアスピネル煉瓦の品質改善に資する目的で,キルン内の雰囲気を大気に近似する酸素分圧と想定し,高温XRDを用いて大気下,MgO-Fe_2O_3 2成分系のWillsheeらが検討しなかった20mass%Fe_2O_3以下の高MgO領域における相関係を精査した.その結果,上述の相に関係し,Fe_2O_3を含むマグネシアスピネル煉瓦の品質向上につながる有用な知見が得られた.
- 社団法人日本セラミックス協会の論文
- 2003-11-01
著者
関連論文
- セメントロータリーキルンに使用された塩基性れんが中に存在する外来成分の解析
- セメントキルン脱着帯奥部に適合するれんが材質の検討
- 石灰焼成炉用クロムフリーれんがの改良(第2報)
- セメントキルン脱着帯奥部境界での省エネルギー
- セメントキルン脱着帯奥部に適合するれんが材質
- セメントロータリーキルン用低熱伝導性クロムフリーれんがの使用実績
- 低温焼結Pb(Zr,Ti)O_3セラミックスの焼結条件と圧電特性
- p-n多層型Si-Ge熱電素子の作製及び出力評価
- 金属酸化物混合電極による色素増感太陽電池の高効率化
- ガスアトマイズ粉及びその粉砕粉の放電焼結により得られたp型,n型Si-Ge緻密体の無電特性
- MgO-Fe_2O_3 2成分系の高MgO領域におけるMgOssとMgFe_2O_4の2相共存
- 溶融体のガスアトマイズより作製されたSi-Ge粉体の焼結性に及ぼすボールミル効果
- 擬固体色素増感太陽電池
- p-n接合シリコン-ゲルマニウムにおけるドーパント移動のXPS分析
- スプレー熱分解法によるNiZnフェライト薄膜の作製とその特性
- スプレー熱分解法による二硫化銅インジウム薄膜の形成
- スプレー熱分解法による酸化チタン薄膜の形成と色素増感太陽電池への応用
- PTシード層を用いたCSD法PLZT薄膜の低温形成と配向制御
- 3E07 スプレー熱分解法により形成された酸化すず薄膜の初期形成過程
- 2I02 X 線光電子分光法による Pb(Zr, Ti)O_3 セラミックスの表面分析
- チタン酸ジルコン酸鉛セラミックス結晶相のX線光電子分光分析
- 1I18 スプレー熱分解 (SPD) 法による配向性酸化すず薄膜の初期形成過程
- Si-及びAl-アルコキシドによるアルミナ繊維の表面化学修飾と加熱変化
- スプレー熱分解法による太陽電池を目指した化合物半導体薄膜の形成
- セメントロータリーキルンに使用された塩基性れんが中に存在する外来成分の解析
- セメントロータリーキルン用クロムフリーれんがの変遷
- セメントキルンにおける廃棄物処理が塩基性れんがのセメントコーティング付着性へ及ぼす影響
- セメントロータリーキルンにおける廃棄物使用量の増加に対応するマグネシア・スピネル質れんが
- セメントロータリーキルン用耐火物の クロムフリー化の現状と将来
- セメントロータリーキルンにおける廃棄物使用量の増加に対する マグネシア・スピネル質れんが
- セメントロータリーキルン用塩基性耐火物のクロムフリー化
- セメントロータリーキルン用クロムフリーれんがの変遷
- 廃棄物溶融キルンへのAl_2O_3-Cr_2O_3-ZrO_2質耐火物の適用
- マイクロ波焼成炉を用いたセラミックスの焼結
- 廃棄物溶融ロータリーキルン用耐火物の損傷
- セメントロータリーキルンに使用された塩基性れんが中に存在する外来成分の解析
- 高濃度SOx, 還元雰囲気下のセメントロータリーキルン焼成帯へのクロムフリーれんがの適用
- 石灰シャフト炉への超高温焼成マグネシア・クロム質れんがの適用
- セメントロータリーキルンの操業下におけるオーバリティー
- 廃棄物溶融炉におけるアルミナ-クロミア-ジルコン質れんがの適用
- 第14回セメント用耐火物研究会要約 セメントコーチングの安定性に関する検討
- ロータリーキルンの新しい攪拌システム
- ロータリーキルンの新しい攪拌システム
- セメントキルンにおいて炉内雰囲気と鉄板厚さが目地鉄板の接着力に及ぼす影響
- 石灰焼成炉用クロムフリーれんがの改良
- ディップコーティング法によるナフテン酸塩からのMn系酸化物薄膜の調製
- セメントロータリーキルン用塩基性耐火物
- 廃棄物溶融キルン用 Al_2O_3-Cr_2O_3-ZrO_2質耐火物の特性
- 石灰焼成炉用耐火物の基礎
- 第14回セメント用耐火物研究会要約 セメントロータリーキルン用塩基性耐火物のクロムフリー化
- セメントロータリーキルン脱着帯におけるスピネルれんがの損耗要因
- 中国産カオリンの性状 (〔耐火物技術協会〕第49回原料専門委員会要約)
- 鉛ガラス窯蓄熱室用耐火物の特性 (第3回ガラス用耐火物研究会資料)
- 中国産カオリンについて (〔耐火物技術協会〕第46回原料専門委員会資料)
- ガラス窯用アルミナジルコンれんがの品質特性について (〔耐火物技術協会〕ガラス用耐火物研究会セミナ-資料)
- 中国産原料について (〔耐火物技術協会〕第44回原料専門委員会資料要旨)
- スプレー熱分解法による太陽電池を目指した化合物半導体薄膜の形成
- スプレー熱分解法による太陽電池を目指した化合物半導体薄膜の形成
- セメントロータリーキルン焼成帯用クロムフリーれんがの使用実績
- セメントロータリーキルン用クロムフリーれんがとセメントとの反応
- セメントロータリーキルン焼成帯用クロムフリーれんがの使用実績
- セメントロータリーキルンにおける塩基性れんがと炉内ガスとの反応
- ガラスカプセルHIP法によるPb(ZR,Ti)O_3系セラミックスの改質と焦電特性
- コロイド熟成法による立方状含水酸化チタン微粒子の生成と粒径制御
- 電子顕微鏡法による反応焼結窒化珪素の生成過程の解析
- 複合酸化物を添加した低温焼結 PZT セラミックスの圧電特性
- 古典的基盤技術に新技術を融合して活力を
- セメントキルン用耐火物の評価技術
- 耐火物の基礎科学--構成成分の結晶化学と物性--カルシア(CaO)-2-応用(実践的耐火物講座)
- セメントキルン用耐火物の化学的損傷 (耐火物の損傷-2-) -- (セメントキルン用耐火物の損傷)
- 熱力学応用編--セメント焼成ロ-タリ-キルンに使用したドロマイトれんがの変質(実践的耐火物講座)
- 熱力学 応用編-9-セメント焼成ロ-タリ-キルンに使用した塩基性れんがの目地鉄板の溶失(実践的耐火物講座)
- シリカゲル表面へのチタニア及びジルコニアコートとNH_3のTPD
- スプレー熱分解法によりトリブチルスズアセテートから作製したSnO_2膜の配向性
- 使用後耐火物の処理とリサイクル
- 耐火物の発展のために思うこと