イネ抵抗性系統の混合集団を用いたトビイロウンカの実験的選抜
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概要
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異なる病害虫抵抗性遺伝子をもつ同質遺伝子系統を混合栽培する多系品種は,作物の抵抗性崩壊への対策の一つと考えられている.この研究では異なったトビイロウンカ抵抗性遺伝子をもつ水稲系統の混合集団上でトビイロウンカを実験的に飼育・選抜し,トビイロウンカの加害能力の変化に対する抵抗性混合集団の効果を調べた.混合集団を構成する系統としてトビイロウンカ抵抗性遺伝子Bph1をもつ水稲の中間母本農3号(農3号と略す),bph2をもつ中間母本農4号(農4号),bph4をもつ中間母本農7号(農7号)を用いた.抵抗性系統の単独区と混合区で野生型トビイロウンカを飼育し,世代経過にともなう羽化率の変化を比較した(Table1).第一世代を経過したとき,感受性品種「むさしこがね」の上でトビイロウンカは83%の羽化率を示すのに対して,抵抗性系統の単独・混合区では羽化は抑制され,15%ないし58%の羽化率に留まった.しかし世代が経過するとともに羽化率は上昇し,単独区では5世代目に,また混合区では9世代目に,寄生餌として用いた抵抗性系統の上で感受性品種並に高い羽化率を示すトビイロウンカ選抜系が得られた(Figs.1,2). 各区の選抜系トビイロウンカの加害性を選好性によって比較した.非選抜系トビイロウンカが抵抗性系統を選好する頭数は感受性品種よりも少ないが,単独区によるトビイロウンカ選抜系は対象とした抵抗性系統に感受性品種並に着生した(Table2).また,2系統及び3系統による混合区から得たトビイロウンカ選抜系はいずれの対象系統にも感受性品種と同様に選好し,系統間差も認められなかった(Table3).混合区から得た選抜系は単独区から得た選抜系よりも幅広い加害能力をもっていることから,トビイロウンカ抵抗性に関して2系統から3系統の混合栽培はバイオタイプ発生を数世代だけ遅らせるものの,それを完全に抑制するには不十分であり,逆に加害範囲の広いバイオタイプの発生を招く危険性が高いと考えられた.
- 日本育種学会の論文
- 1994-06-01
著者
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