臨床的教育理論と教育的公共性の生成(<特集>公教育再考)
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概要
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1)臨床的教育理論は、教育の理論が教育実践との関わりを回復し、教育的公共性の生成に参与するための、不可欠の契機である。しかし、臨床的教育理論、わけても臨床心理学は、教育的公共性の成立を妨げかねない私事化の元区であるかのような嫌疑をかけられてもいる。本稿では、この臨床的教育理論への背反する見方について突き詰めて考える。2)教育の理論は臨床心理学によって、理論が臨床的であることのもつ意義を教えられてきた。教育の理論は、教育する類の自己認識であり、日常的教育状況こそが、その理論構成の出発点でもあれば帰着点でもある。このような教育理論の臨床理論への再生の具体的な在りようは、教育人間学、臨床教育学、大学教育学などにみられる。3)さらに教育の理論は、臨床心理学によって、世代間の相互性の意義を教えられてきた。教育的公共性の重要な構成契機は、相互性である。相互性には、教える者が教えつつ学ぶことと、学者が学びつつ、教える者を教えていることなどが含意されている。教育的公共性は、教える者と学ぶ者との連携である。4)相互性が本質的契機であるとすれば、教育的公共性は、異質な者の連携するアソシエーションの組織化である公共性一般からどのように区別されるのか。両者の区別の根拠は、教育的公共性における非対称性にある。教える者は、この非対称性を自らのさけがたい在り方として引き受け、教育責任を担わなければならない。教育的公共性は、教育者の学習者への教育責任によって非対称性を越えてもたらされる相互性によって、構成されるのである。5)今日の教育の領域では、臨床的教育論、わけても臨床心理学が、隆盛をきわめているが、この隆盛の反面で、臨床心理学の存在そのものに、専門化による閉鎖性や私事化の嫌疑がかけられている。臨床的教育理論は、非対称性と教育責任の観点から相互性を再把握し、この嫌疑へ積極的に反論し、自らを開放することによって、はじめて、教育的公共性の生成に積極的に参与できるはずである。このような相互性の再把握は、教育の理論の構築にとっても、教育的公共性の生成にとっても、きわめて重要な課題の一つである。
- 日本教育学会の論文
- 2000-12-30
著者
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