単純商品の再生産に関する考察

概要

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単純商品生産の典型は,封建制生産様式から資本制生産様式への過渡的形態の商品生産であり,小農業や手工業などの小経営的生産様式の範躊である。小論の目的は,単純商品の再生産に関する考察を通して単純商品生産に独自の理論的特質を明らかにすることである。単純商品の再生産過程は,小経営の再生産を目的とし,等価値交換の流通形態である単純流通と貨幣流通=非資本流通を包括する。とりわけ貨幣流通は,単純商品の再生産過程の直接に流通部面で現象する一般的範式を表している。単純商品生産の純粋な形態においては,生産手段の所有と労働者との未分離状態批小生産者とその家族の再生産を生産の規定的目的たらしめ,単純商品生産者が生産物に対象化した彼自身の社会的労働分量を価値=価格として回収し,他人のための剰余労働(不払い剰余労働)を排除して剰余価値を生産者=労働者に帰属させる。この生産形態が生産者自身のための超過労働=剰余生産を排除しないのは,商品の価値法則と競争の強制法則の作用によって,労働力の価値ではなく生産者=労働者の生活手段の価値が生産物価値の構成要素として入り込み,それを超える超過労働=剰余価値を生産物の内在的生産費の一要素に転化するからである。そしてまた,この剰余価値が収入の支出として価値循環から脱落しても生産の規定的目的を侵害しないために,単純商品の再生産過程は単純再生産が正常な状態となる。この循環からの剰余価値の脱落は単純商品生産者自身によって実行されるだけでなく,無償譲渡による分配諸関係を通して循環から流出転化して外化諸形態(譲渡利潤,地代,利子等に分裂する。それ故,貨幣還流から資本循環への転化は,剰余価値の生産と実現という点ては単純商品の再生産過程の中で既に準備されているのであり,それが生産者相互の競争の結果,小生産者と生産手段の所有とが分離して小生産者が資本家と貨労働者に分解する過程を通して惹きおこされる。単純商品の再生産過程における価値増殖は,次のような契機によって与えられる。第一に,単純商品生産者の労働が,彼自身の労働の意欲から生ずる彼自身のための自己目的的労働であり,生産物は直接的生産者自身の所有物である。それ故,小生産者にとっての超過労働=剰余生産は排除されない。第二に,商品の価値法則が競争の強制法則として作用し,それが小生産者の禁欲と放言衝動として現象し,剰余生産物または剰余価値(その全量または一部分)が小生産者自身の自立的富として蓄積される。単純商品の再生産過程において,一方では,剰余価値は流通過程から脱落し個人的消費にはいりこむ。その場合,単純商品の再生産は,単純再生産,および単純商品生産の固定または停滞に帰着する。他方では,剰余価値は蓄積元本となる。その場合,単純商品の再生産は蓄積と拡大された規模での再生産に帰着し一層発展し分解する。この拡大再生産に必要な追加的労働力は,市場競争によって惹きおこされる単純商品生産者層の分解を通して生ずる労働力の販売者によって供給される。その場合には,単純商品生産の発展・分解は小経営的生産様式の資本側生産様式への転態の起動力となる。
1992-12-25

著者

柳田洋吉
岐阜大学農学部生物生産システム学科

単純商品の再生産に関する考察

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