経営受託型(借地型)水田経営の成立条件と経営目標 : 岐阜県海津町の事例分析から
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概要
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営農組合組織の特質(その類型的特質)を考察し,その経営経済性として,純利益と地代(小作料)の計算・考察を行った。対象事例は,1985年1月に設立された岐阜県海津郡海津町A部落の『A営農組合』である。名称は営農組合であるが,その設立時点から組合長を経営主とする事実上の個別受託型(借地型)水田経営である。経営受託水田面積は90haを超えており,作業は,経営主(兼機械作業オペレーター)を中心に,常雇の機械作業オペレーター2人と補助労働力2人(婦人)および臨時日雇延200人目に依存している。得られた主な考察結果は,次の通りである。1.1980年代の用排水分離・地下水低下と大型圃場整備による土地・水利用の個別化と集団化が進展するとともに,土地生産性と労働生産性が上昇した。2.経営目標は,粗収益から第二次生産費〔(費用-副産物価額)+支払小作料+借大資本利子〕を差し引いた残余,すなわち,純利益である。3.10a当りの支払小作料は,稲作団地で玄米3.5俵,その他の経営受託田(借地)は,各一筆の耕作条件と収量によっておおよそ3つのランクに分かれ,玄米2.5俵(5.2万円),2.0俵(4.2万円), 2.0表(3.4万円)である。また,転作田は,1.0俵(2.19万円)であり,転作奨励金を含めれば,部落の内外とも小麦作団地の地主受取分は,約8万円/10aである。この金額は,従来土地所有者が自作して得ていた10a当りの米所得分にほぼ匹敵している。4.『A営農組合』の純利益は,10a当りで,部落内にある稲作団地が10,440円,転作の小麦作団地が15,185円,大豆作団地がゼロ,小麦後作の大根作が53,240円である。他方,部落外の稲作受託(借地)田が49,935円,小麦作(集団転作田)が9,564円となっている。以上の結果から,純利益は,部落内転作小麦の裏作(後作)大模作が,手間がかかり価格が不安定であるが無地代の作り徳であるためもっとも高くなり,次いで,部落外の分散稲作田が,支払小作料が相対的に安いため,高い純利益を実現している。5.利用権が設定されている部落内借地22.5haの耕作は,雇用労働(4人)の作業調整と土地利用(稲作・小麦作・大豆作・裏作など)の調整が自由であり安定した純利益を実現している。作業受託田延85.0haの純利益を含む純利益総額は,1,480.9万円となる。経営者労賃497.9万円と合わせて,D氏の所得は,1,978.8万円となる。後継者と妻は,施設園芸に専従しているので,D氏の所得のかなりの部分は,蓄積=経営規模拡大へ振り向けることができる。89年度の大型農業倉庫(および設備)の建設がそのことを物語る。6.西南濃農業改良普及所・海津町役場資料と『A営農組合』の聞取り調査をもとにして得られた計算の結果は,固定資本の減価償却費1,693.5万円+流動資本額2,808.4万円+労働費1,857.9万円+剰余金3,970.4万円=粗収益11,317.6万円であり,剰余金から支払小作料2,489.5万円を差し引くと,純利益1,480.9万円となる。総投下資本(C+V) 10,986.9万円に対する利潤率P'は13.5%,総消費資本K6.359.8万円に対する利潤率p'は23.3%となる。市中金利7〜8%と比べても決して遜色無い利益をあげている。80年以降の「高須輪中総合整備事業」を契機とした土地生産性と労働生産性の並進によって,賃労働に依存する経営受託型(借地型)水田経営の成立が可能となったことを示唆している。
- 1991-12-25
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