琉球の漆について(林学科)
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概要
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最後に明治以降の動向について大雑把に概観し, この小論の結びにかえたい。王朝時代には首里王府の管轄下にあった漆器製造業は, 廃藩置県(明治12年)以後になると民営の漆器製造業へ漸次転化し, 明治35年には製造戸数49,職工数227人, その産額は2万6千円にものぼり, 県内製造業中でも重要な位置を占めつつあった。『沖縄県統計書』によって, 明治35∿昭和13年までの生産額を調べてみると, 合計549万6千円, 年平均にして14万8千円, そのうちの64%は県外(大阪, 神戸, 鹿児島, 長崎, 台湾, 朝鮮)への輸出額となっている。製造された漆器の種類もこれまでの高級装飾品的なものから一般大衆向のものに変わり, たとえば, 大正2年の漆器の種類別内訳をみると, 飲食器68%, 家具17%, 装飾品6%, その他9%となって, 生活用品としての飲食器類が圧倒的多類を占めている。高級品の減少, 飲食器類の増加という一連の動きをみて, かつての琉球漆工芸技術が衰退したかのごとく説く人がいるが, 庶民生活と密着した琉球漆器の大衆化こそ特筆すべきことであり, また増産への原動力となっていたものと考えられる。漆器製造に要する漆は, すべて県外(大阪, 鹿児島, 台湾)の精製漆で賄われ, 県内産の漆はまったくみられない。同じく県統計書によって輸入漆の動きをみると, 明治20年代には1,300斤前後であったものが, 大正2年には約6倍に増加し, 以後年平均7,600斤(2万円余)程度で推移している。このように明治以降の琉球漆器についてみても, 特に漆に関する限り, 18世紀以後の状況と大差はない。ウルシノキの栽培にいたっては, ほとんど手がつけられていない状態である。わずかに『沖縄県の林業』(昭和13年)の中にウルシの苗木を養成した記録がみられるのみである。これは昭和恐慌で疲弊しきった県経済を立て直し, 農村振興を図る一環として樹立された, 昭和8年度より昭和22年度までの15ヵ年間継続の沖縄県振興計画にもとづく林業振興事業によるもので, 当初は鳴り物入りで出発したが, その後, 戦時体制への移行に伴い計画倒れに終っている。戦後に至っては「琉球林業試験場報告」(1952年)にアンナンウルシの発芽試験経過報告がみられるが, いずれも試験段階の域を出るものではない。以上のように戦前・戦後の今日でも漆の栽培にあまり関心が寄せられないのは, 安価な精製漆が豊富に輸入されていることにもよるが, 他方『琉球漆器考』以来の定説, すなわち琉球には昔からウルシノキはなく漆液もすべて日本産の吉野漆を用いてきた, という誤説の通説化にも, その一因があるように思われる。
- 1981-11-30
著者
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