自閉的傾向を持つ生徒の音楽学習におけるコミュニケーションとその表現 : 「絵本から音楽を作ろう」という授業の分析を通して -
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概要
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自閉的傾向を持つS夫の2年間に渡る音楽学習の記録を,コミュニケーションと表現の視点から分析・考察した。その結果,次のことが明らかになった。1. 一人で活動する場面では,自分の世界でどんどん空想を膨らまし,人の真似ではない独自の表現をためらうこともなくした。 2. 全員で一斉に活動する場面では自分の世界で遊んでいた。「S夫君」と周りから呼びかけると,活動の輪に入ってきたが,ただぼんやりとしていた。3. 相手の模倣が容易な状況にある活動では,すべて模倣か反響として表した。言葉と言葉,動きと動き等という同じ媒体で表現する場合である。4. 他者とコミュニケーションを成立させて表現した活動に,少人数で行う曲づくりがあった。ここでは相手のリズムに合わせたり,合いの手を入れたりして,相互に刺激し関連し合いながら表現した。また,コミュニケーションとまではいかないが,相手を意識し関わって表現できた活動に,少人数による創作表現がある。ここでは,言葉と音というように異なった媒体でやる場合はできた。5. コミュニケーションの成立を可能にする要因として,周りからの支援や適切な教材という視点がある。支援とは,彼の存在を認めることであった。教材は,子供の感覚を直接刺激するもの,言葉がなくてもコミュニケーションのとれるもの,つまり,創作表現や曲づくりが適切であった。The purpose of this study was to investigate the two years' records of a boy's communication and his expression in music activities. Following are the results of the investigation. 1. When he was playing alone, he expanded his own world and created music with his unique expression without hesitation. 2. When he was with all other children, he was playing in his own world. Being asked to join the group activities, he came in the group but remained inactively. 3. In a smaller group, he created expressions responding to his partner using different media from his partner. 4. When he used the same media as his partner, he imitated or echoed the partner's expression, if possible. 5. When he was making music in a small group, he could express himself communicating with other children. 6. Support from surrounding people was necessary for the actualization of communication in his case.
- 大阪教育大学の論文
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