疫病菌卵胞子の成熟から発芽に至る細胞内変化 : とくに核とその他の細胞オルガネラの行方に関する新しい考察(農学部門)
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概要
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クリ疫病菌Phytophthora castaneae KATSURA et UCHIDA CCT 691の卵胞子の成熟から発芽に至る過程の細胞内変化を, サカマキガイ法により裸出した卵胞子を用いて調べた。卵胞子の成熟に伴なう細胞の透明化は, 細胞質の大部分が多数の液胞により占められてしまうためであるが, ベンッピレン螢光染色性が高く, この液胞群は, りん脂質に富む構造であると思われる。一方, 液胞間隙に残された細胞質は, 崩壊しつつ, 次第に中央に押しやられ, 大きな集塊を形成するようになる。この濃縮域は, 内容的には, 無定形の粗雑な物質のように見える集塊と, オスミウム濃染性の均一な脂質様物質の集塊から成っている。発芽始動と共に, まず, 細胞壁内層の全域にわたる崩壊が起こり, その近辺から, ひも状あるいは繊維状の各種膜系の生成がみられると共に, 液胞域からは, ミトコンドリアなどの細胞ミクロオルガネラ類が, あぶり出しのように, いっせいに出現しはじめる。ここで, 中央の濃縮域において, 核様構造体が分割しながら分散しつつある状態を示すとみられる像が観察される。この濃縮域の様相は, 光学顕微鏡下における, ギムザ染色で赤紫色を呈する粒子, アクリジンオレンジ染色で黄緑色螢光を示す粒子, あるいは, エシジウムブロマイド染色で鮮明な赤黄色螢光を発する粒子の変化とよく一致することから, 核の行動を示しているものと考えられる。以上のことから, 卵胞子の成熟とは, 各細胞内オルガネラが, その膜系を消失して, それぞれの部品に仕分けられ, 濃縮保存されている状態ということができ, 発芽の始動とは, それらが再び組立てられて, 膜系が復活再生し, 機能しはじめた状態と考えられる。すなわち, 卵胞子の中にあって, 多数の核は, 単に濃縮と分散を行なっているにすぎないことが考えられ, 現在, 定説となりつつあるBrasierらの仮説, 核はひとつを残して他は消失するとする考え方, とは根本的に異なることになる。
- 京都府立大学の論文
- 1983-11-15
著者
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