岡崎100年間の「ていただく」増加傾向 : 受恵表現にみる敬語の民主化
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概要
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この稿では,対人関係調節のための新表現が実時間の100年間でどのように増加したかを論じる。具体的には,敬語に関わる新表現「ていただく」における進行中の言語変化をみる。岡崎市の55年にわたる計1000人規模の大規模社会言語学的調査に基づき,年齢という見かけの時間を利用する。間隔の異なる3回の調査結果を,時間軸を忠実に反映できるグラフ技法によって提示したところ,「てもらう」「ていただく」が着実に普及しつつあることを,確認できた。これは日本語の補助動詞の発達,授受表現の普及と一致し,岡崎という東海地方の都市の変化が日本語史全体と深く結びついていることが分かった。この背景には敬語変化の普遍性がある。ヨーロッパの二人称代名詞の用法における「力関係から連帯関係へ(from power to solidarity)」と並行的な変化が,現代日本語の敬語でも起こりつつある。つまり地位の上下による使い分けから,親疎による使い分けに変化しつつある。コミュニケーションの民主化・平等化が進んだと考えられる。また,場面による使われ方の違いをみると,依頼表現に伴って多用されるようになった。つまりかつての身分,地位による敬語の使い方と異なった基準が導入され,場面ごとの心理的負担や親疎関係がからむ。このメカニズムも,敬語の民主化・平等化として解釈できる。新表現が個人の一生の間にいかに獲得されるかをみると,若い世代が最初に採用するわけではない。対人関係にかかわる現象に関しては,社会的活躍層が使いはじめる。ポライトネスや敬語などで,30代以上の壮年層が最初に新表現を採用する例,成人後採用の実例が認められた。
- 2012-11-00
著者
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