Venus Climate Orbiter 搭載 雷・大気光カメラの開発
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概要
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現在,金星大気超回転の解明を主目的とした金星気象衛星(VCO:Venus Climate Orbiter)を打ち上げるPlanet-Cミッションが宇宙航空研究開発機構/宇宙科学研究本部を中心として進行中である.我々はVCOに搭載する雷・大気光カメラ(LAC:Lightning and Airglow Camera)の開発を行っている.LACは金星夜面における雷放電発光・大気光を2次元で高速イメージングする観測器である.雷放電観測では,まずこの現象の存在の決定的な証拠を得て,長年の論争を収束させることを目標とする.さらに,その電荷生成・分離メカニズムの解明や硫酸雲物理学の理解,惑星メソスケール気象学の発展,金星大気中における熱的・化学的寄与の見積もりなど,様々な分野に貢献することが期待される.大気光観測では,発光強度の緯度・経度分布から金星超高層大気の運動を継続的にモニターし,さらに波状構造をイメージングすることで,金星下部熱圏と下層大気の力学的結合過程の解明,金星熱圏大気大循環メカニズムの理解の進展が期待される.さらに近年,地上望遠鏡で発見された558nm[OI]の連続観測も実施し,その発光強度分布や時間変動を捉え,オーロラとも解釈できるこの発光現象の解明を目指す.LACのセンサーとしては,高感度を有し,かつ高速サンプリングが可能なものが要求される.また本観測器は,雷放電発光観測用に波長777nm[OI]の干渉フィルタを採用し,50kHzプレトリガーサンプリングでデータを取得する.一方,大気光観測時には波長551nm[O_2Herzberg II],558nm[OI]で連続サンプリングを行い,積分時間10secで1枚の画像を作成する.VCOは金星低緯度を周回する長楕円軌道をとるが,LACはこのうち近金点(高度300km)付近から金星より3Rv離れた地点までの高度範囲で運用する.その際,雷放電発光観測に関しては距離3Rvの地点から地球の平均的発光強度のものを,1000kmの高度からはその1/100レベルのものまでを検出することを目標とする.一方,大気光に関しては発光強度100Rのものを,SN比=10を確保して検出することを目標とする.上記の性能を達成するため,我々は第一に,LACのセンサーとして光電子増倍管(PMT:Photo Multiplier Tube)とアバランシェ・フォトダイオード(APD:Avalanche Photo Diode)の2つを検討した.いずれも8×8の2次元配列素子である.絶対感度校正実験から得られた出力電流値と,暗電流測定試験から得られた暗電流値から,本観測器で100Raylieghの光源を観測した場合の暗電流統計揺らぎによるSN比が10以上であることを確認した.しかしながらAPDについてはバックグラウンドレベルの温度安定性が低く,光量の小さい大気光観測は適さないことがわかった.またPMTに関しては波長777nmにおける量子効率がAPDに比べて小さく,雷放電発光観測は困難であることが判明した.第二に,金星夜面観測の際に視野内に混入することが予想される迷光(太陽直達光,金星昼面光)の量を見積もり,迷光減衰要求量11桁を達成する高い遮光技術を有する光学系の設計・開発を行った.衛星側面に設置し片側を宇宙空間に暴露させ,対物側に4枚の遮光板(vane)と1段バッフルを取り付けた光学系を設計した.本光学系を採用する際,衛星表面を覆う金色のサーマルブランケットや設置面上にある突起物を介して,迷光が観測視野内に混入することが懸念されるため,我々は暗室内で精密な模型実験を行った.その結果,衛星突起物がベーン陰影内にある場合,その迷光量はカメラ部の1段バッフルから検出器間の遮光対策で十分減衰可能な量であることを定量的に示した.第三に,高速サンプリング時におけるデータ取得方法の考案・検討を実施した.忘却係数という概念を用いてトリガーサンプリング方法を考案し,地上フォトメータで捉えられた地球雷放電発光の波形で試験した結果,ノイズと分離して信号を検出することに成功した.本研究成果により,LAC開発に必要不可欠な基礎技術の活用に見通しを立てることができた.
- 宇宙航空研究開発機構の論文
著者
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堤 雅基
情報・システム研究機構国立極地研究所
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堤 雅基
極地研
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牛尾 知雄
大阪府立大学 工学研究科 航空宇宙工学分野
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高橋 幸弘
東北大学大学院理学研究科
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高橋 幸弘
東北大
-
高橋 幸弘
東北大院理
-
吉田 純
東北大院理
-
吉田 純
東北大学大学院理学研究科
-
福西 浩
東北大学大学院理学研究科
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福西 浩
日本学術振興会北京研究連絡センター
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堤 雅基
極地研究所
-
堤 雅基
国立極地研究所:総合研究大学院大学極域科学専攻
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