6. 道路交通からみたロマ・プリエタ地震の被害分析と交通運用策の評価
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本研究の意義 信頼性の高い道路網は,自然災害が発生してネットワークの一部機能が喪失・低下しても,ネットワーク全体としては確実で安定した交通サービスを提供できると同時に,災害復旧時においても大いに機能を発揮する.したがって,信頼性の高い道路網を構築すること,および高い信頼性を維持できる道路管理運用計画を策定することは,今後の防災対策の観点からきわめて重要である.特に道路網においては,あるルートが閉鎖された場合,大量の迂回交通が発生して他のルートの円滑な走行性にも重大な影響を与える.したがって,交通ライフラインの視点からは,ネットワークの一部の機能喪失がネットワーク全体の機能喪失に及ばないよう,道路整備計画の策定および交通の管理運用計画を確立することはきわめて重要な課題である.しかしながら,この課題に対しわが国の状況は次の問題点を有していると考えられる.(1)道路ストックに対し,交通の需要が多い.(2)都市圏での地震災害が最近少ないために,災害時の道路交通計画を協力に推進するためのインパクトが小さい.(3)道路交通における災害時対策のための方法論が十分には確立していない.すなわち,わが国の都市圏道路網は,その交通容量に対してぎりぎりの条件下で運用されているといわざるを得ない.ネットワークの構成要素は十分な耐震強度のもとで設計施工されているが,万一,地震災害が都市道路網を襲ってその一部に損害を与え,しかも経済活動には大きな影響を与えない場合には,ネットワークの完全な回復まで残されたネットワークで経済活動を支えなければならない.したがって,そのような状態が生じたとすれば,その影響を把握し適切な道路網運用を行うことはきわめて重要な課題である.また,関東大震災以来わが国では大きな都市地震が発生しておらず,研究の手掛かりとなる基礎データも存在しないために,このような分析を行う機会が存在しなかった.さらに,同じ理由で,地震時に予想される状況設定のもとで震後の道路網の状況予測を行なっても,一般市民にはなかなか実感をともなって受け入れてもらえないようである.したがって,道路網における災害計画の必要性がなかなか認識してもらえないこととなる.一方,計画実務者にとっても,災害時には不確定要素がきわめて多いこともあって道路および交通状況の理解が抽象的かつ定性的になり易く,体系的かつ科学的根拠をもった災害対策に結びつかない可能性を有している.したがって,効果的な災害対策を講じるためには状況を定量化することが重要である.すなわち,説得力ある防災計画を策定するにはリアリティのともなった状況の説明と分析が必要であると考えられる.特に災害対策策定に関しては,災害が発生して初めて策定を行なうのでは人員の確保,時間,計算実行のための電源確保等の問題があるから,緊急時のシナリオを事前に多数個設定して災害に備えることが重要であると考えられる.以上の目的のためには,(1)災害前後の道路状況を説明(再現)し,得られた交通指標をもとに信頼性をはじめネットワークを多面的に評価する方法論を確立し,(2)この方法論を過去の事例に実証的に適用して(1)の方法の有効性を示し,その場合にとられた諸対策の事後評価を行って今後の参考とし,(3)今後,万一起こり得る災害に対して,交通からみた都市の震後機能の強さを評価する,ことが必要であると考えられる.1989年10月に発生したロマ・プリエタ地震では,被害が生じた地域において地震前後の交通データが収集され,このデータをもとに災害時における道路網の交通からみた被害分析と対策の評価が可能となった.この地震では,サンフランシスコ湾の東西圏交通の中核的ルートであるベイブリッジの渡り桁が一部落橋し,復旧までの1ヶ月間,湾岸地域の交通に大きな影響を与えた.この間,鉄道交通であるBARTが代替的役割を果たした他,臨時的なHOVレーンの増設による交通運用が行なわれた.観測された交通量データは,通常の交通ネットワーク分析で必要とされるOD表(出発値(Origin)と目的地(Destination)間の交通量を表した表)がないなど,そのままでは分析できない不十分なものであるが,交通ネットワーク分析手法で従来から開発されてきた手法や筆者らが開発してきた道路網信頼性解析法をシステム的に組み合わせることによって上記の(1)の方法論を構築し,(2)の分析を行った.(1)の道路網評価では以下の分析を行った.(a)災害前後の道路網容量の分析 道路網容量とは,固定されたODパターンのもとでOD交通量をある配分原則に従って漸次増加させていったとき,そのネットワークで処理し得る最大トリップ数である.(b) 地震前後における各地域間の所要時間の変化の分析(c) 地震前後の道路網の連結信頼性の分析 ここに,連結信頼性とは,所与の期間中,道路網の任意のノード間において,あるサービスレベル以上での走行移動が保証される確率的指標と定義される.この信頼性は代替性の指標であり,ある経路が通行不能となっても,代替経路が確保されて円滑に目的地へ到達できる程度を表している.本研究では,ロマ・プリエタ地震の被害分析を行い,同時に交通運用策の評価すなわち,交通手段の転換によってBARTが果たした役割,臨時的なHOVレーンの増設による交通運用の評価を行っている. 既発表論文の概説(1)ロマ・プリエタ地震によるサンフランシスコ湾岸地域の道路網の交通への影響,平成4年度土木学会関西支部年次学術講演会概要集(発表予定),1992:上記のうち,道路網容量についての報告(2)ロマ・プリエタ地震がサンフランシスコ湾岸地域の道路網連結信頼性に与えた影響分析,土木学会第47回年次学術講演会概要集第4部(発表予定),1992:上記のうち,連結信頼性についての報告
著者
関連論文
- 確率論的想定地震の概念と応用
- 26. 地域の地震危険度に対する活断層の影響 : 神戸を例として
- 6. 道路交通からみたロマ・プリエタ地震の被害分析と交通運用策の評価
- 橋梁-車両連成系による道路橋の地震応答特性
- 35.阪神・淡路大震災における情報処理行政支援活動と効果分析
- 危機管理における計測制御技術による意思決定支援の課題 -阪神・淡路大震災の経験と今後の危機管理-
- 大災害時のライフライン確保
- 交通システムを中心とする地震対応計画の日米比較と課題
- 多次元地理情報システムDiMSISとの連携が可能な地震情報緊急伝達システムの開発(被害予測と緊急対応,口頭発表)
- 地震時における道路施設の構造損傷・機能障害の評価(一般セッション,口頭発表)
- 防災研究の横糸と縦糸
- 交通システムを中心とする日米の地震対応計画について
- 61. 地震による道路施設の構造被害と機能損傷に関する考察(都市施設の防災性向上と許容リスク その2)
- 81. 災害時におけるすまいの機能に関する考察 : 災害人類学の構築にむけての試み(その2)(トルコ地震・台湾地震)
- 兵庫県南部地震による西宮市域の建物の被災と復興に関するGIS分析
- 21067 兵庫県南部地震による西宮市域の都市災害の復旧・復興に関するGIS分析
- 21033 1995年兵庫県南部地震による西宮市の都市施設被害分析のためのGISの利用
- 2010 1995年兵庫県南部地震による都市施設被害分析のための地理情報システム(GIS)の利用(構造)
- ロマ・プリエタ地震後のサンフランシスコ湾岸地域の道路網運用の効果分析と災害時の道路網計画
- 21058 1995年兵庫県南部地震による建物被災把握のための地理情報システム(GIS)の利用 : その2
- 21057 1995年兵庫県南部地震による建物被災把握のための地理情報システム(GIS)の利用 : その1
- 平成7年兵庫県南部地震をふまえた大都市災害に対する総合防災対策の研究の経過報告 : 課題の抽出と体系化(阪神・淡路大震災特集)
- 1993年釧路沖地震による都市施設被害と生活支障アンケート調査報告
- 2154 1983年日本海中部地震による能代市の被害の再評価のための質問紙調査 : 家屋被害集計結果
- 13. 1983年日本海中部地震による被害の総合的再評価 : 能代市をフィールドとする都市災害の研究計画
- 26. 地震時のライフライン機能障害に対する利用者の対応システムを考慮した生活支障の評価法
- 特別シンポジウム : 震災を越えて : 土木への期待と将来展望
- 時差出勤策による渋滞緩和効果のモデル分析
- 時差出勤が通勤ドライバ-の出発時刻と経路選択に及ぼす影響
- 交通状態の不確実性を考慮した時差出勤策について
- ドライバー特性を考慮したシミュレーション実験による料金効果分析
- 災害エスノグラフィーをもちいた災害過程における共通構造に関する考察
- 災害エスノグラフィーの標準化手法の開発 : インタビュー・ケースの編集・コード化・災害過程の同定
- GISの防災活用 : リスク対応型地域空間情報システムの構築を目指して(1)
- 乗客配分モデルを用いた環状ネットワークにおける乗客行動分析
- 車両検知器データを用いた都市高速道路における突発事象のオンライン検知に関する研究
- 情報精度が駐車場選択行動に及ぼす影響に関する実験分析
- 阪神・淡路大震災発生後の時点経過を追ったOD交通量の変化に関する研究
- 駐車場案内システム導入によるドライバーの駐車行動変化の実証的分析
- 画像データ利用による路肩部駐車を考慮した高速道路の合流挙動分析
- ITS技術開発における土木技術者の役割
- 国道1号・161号合流部におけるITS利用の道路安全システムに関する基礎的研究
- 交通工学から見たITS
- 経路選択行動分析に基づく都市高速道路の交通管制方策評価
- 社会が求めるITS発展の方向性
- 2.われわれは何を学んだか (3)交通システムの問題点
- 交通手段選択における所要時間信頼性の影響と交通サービス途絶時の利用者の意識変化に関する研究
- 故名誉会員 米谷栄二先生のご逝去を悼む
- 走行速度の時間変化を考慮した動的LP制御モデル
- 「大震災と道路交通」特集にあたって
- 事故・災害等による都市交通システムへの影響分析と利用者の意識変化および対策に関する研究
- ドライバ-の情報依存性を考慮した経路誘導の効果分析
- 道路網における経路選択を考慮した動的交通流シミュレーション
- 高度交通管理を考慮した日々の学習過程と動的交通行動分析
- 時空間情報管理による緊急時情報伝達システムの提案(被害予測と緊急対応,口頭発表)
- 利用者均衡配分による都市高速道路ランプ勢力圏の推定
- 観測リンク交通量に基づくOD交通量推計の信頼度評価法
- 複数経路を持つ都市高速道路網における最適流入制御モデルの定式化と解法
- 阪神・淡路大震災の交通流動調査--車両感知器データの活用・GIS化
- 49.災害管理空間情報システムDiMSISの構成とその活用による行政データベース構築の提言 : 災害初動時から活用できる防災システムの提案
- 信号交差点右折交通流の遅れに関する一考察
- 21683 交番変位載荷を受ける鋼構造部材の極低サイクル疲労破壊実験
- 2041 交番変位載荷を受ける鋼構造部材の極低サイクル疲労破壊実験(構造)
- 山形鋼部材の極低サイクル疲労破壊実験
- 21641 山形鋼部材の極低サイクル疲労破壊実験 : その4 載荷経路の影響
- 21640 山形鋼部材の極低サイクル疲労破壊実験 : その3 細長比の影響
- 2048 山形鋼部材の極低サイクル疲労破壊実験(その2)(構造)
- 21476 山形鋼部材の極低サイクル疲労破壊実験 : その2 履歴吸収エネルギーと局所ひずみ
- 2058 山形鋼部材の極低サイクル疲労破壊実験(構造)
- 交通需要と道路網の整合性に関する研究
- ピ-クロ-ドプライシングの渋滞緩和特性に関する分析
- 動的交通流シミュレ-ションを用いた道路網における情報提供効果に関する分析
- 流入需要の時間変動を考慮した準動的LP制御問題
- 通勤者の出発時刻と経路を考慮した機関選択に関する行動分析
- 通勤交通の経路選択と出発時刻分布の同時推定法
- 通勤交通の出発時刻分布の推定法
- シミュレ-ションによる道路網の交通量変動分析とリンク信頼度推定法
- 交通工学研究発展のための新パラダイム (特集 交通工学40年のあゆみ)
- ノ-ド発生・集中交通量を内生化した最適道路網計画に関する研究 (1994年度〔日本都市計画学会〕学術研究論文集)
- 46. 阪神・淡路大震災における西宮市域の都市施設の被災・復旧・復興に関するGIS分析(VII. 性能設計と許容リスク,第VIIセッション,第7回(平成9年度)地域安全学会研究発表会)
- 時空間管理地理情報システムを用いた歴史データの統合と災害分析 : リスク対応型地域空間情報システムの構築を目指して(2)
- 交通情報の効果を考慮した経路選択行動の動的分析 (交通需要の動的分析)
- 3-2 ドライバーの経路選択行動の動的分析
- トポロジー構造算出型GISを用いた複数端末協調システムに関する考察
- 道路網信頼性解析へのファジィ理論の適用
- 若林拓史・飯田恭敬・井上陽一共著"シミュレ-ションによる道路網の交通量変動分析とリンク信頼度推定法"〔本誌,458号,1993年1月掲載〕への討議・回答
- 1.総論 20世紀の災害から21世紀の防災へ : 阪神・淡路大震災が土木技術者に課した使命
- 21. 時空間情報処理と総合防災情報システムの実現 : リスク対応型地域管理情報システムの実現に向けて(III. 被害予測と緊急対応 その2,第IIIセッション,第8回(平成10年度)地域安全学会研究発表会)
- GISを応用した総合防災情報システムの地域防災活動への導入 : リスク対応型地域空間情報システム実現に向けて(3)
- 空間データベースから時空間データベースへの転換と総合防災情報システムの構築 : リスク対応型地域管理情報システムの実現に向けて(2)
- 災害緊急時と平常時の連携による総合防災情報システムの構築 : リスク対応型地域空間情報システムの実現に向けて(1)
- 21070 阪神・淡路大震災における神戸市長田区での災害情報処理支援活動 : 災害緊急時に役立つ日常情報システムの構築に向けて
- 2002 阪神・淡路大震災における西宮市域の建物・都市施設の被災・復旧・復興に関するGIS分析(構造)
- ライフラインの総合リスクマネジメントをめざして -災害危機管理システムの新たな展開へ-
- 空間データベースの整備と災害情報処理への応用 : 阪神・淡路大震災の経験から
- 53. 災害管理地理情報システム(GIS)の構想とシステム開発 : 阪神・淡路大震災の経験を生かして
- 災害エスノグラフィーの標準化手法の開発 : インタビュー・ケースの編集・コード化・災害過程の同定
- ネットワ-クの分割と連続体近似による交通量配分
- リスク対応行動を考慮した道路網経路配分 (社会基盤整備のためのリスク分析)
- 交通管理のハイテク化と都市交通計画 (都市交通の新しい展開)