ニホンジカの強度採食下に発達するイワヒメワラビ群落の生態的特性とその緑化への応用
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概要
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シカが高密度に生息する地域の森林伐採跡地では、伐採後に再生した植生がシカの採食によって退行し、その結果伐採跡地が裸地化するという問題が発生している。一方、シカの不嗜好性植物の中には、イワヒメワラビのようにシカの強度採食下にある森林伐採跡地で大規模な群落を形成するものがある。このような不嗜好性植物群落は伐採跡地の土壌流亡や植物種多様性の減少を抑制している可能性がある。不嗜好性植物を伐採跡地の緑化に利用することができれば、シカの高密度生息地域における伐採跡地の土壌保全と種多様性保全を同時に進めることができるかもしれない。本研究では、イワヒメワラビによる緑化の有効性を評価するために、兵庫県淡路島の最南部に位置する諭鶴羽山系においてイワヒメワラビ群落の土壌保全効果と種多様性保全効果を調査した。イワヒメワラビ群落(伐採跡地および牧場跡地)、裸地群落(伐採跡地および牧場跡地)、二次林(ウバメガシ林、ヤブニッケイ林)のそれぞれに5m×5mの調査区を複数設置し(合計93区)、調査区ごとに植生調査と土壌調査を行った。その結果、イワヒメワラビ群落では二次林と同様の土壌が維持されていたが、裸地群落では明らかな土壌流亡が観察された。また、イワヒメワラビ群落では、イワヒメワラビの地下茎の作用によって表層土壌が柔らかくなる傾向がみられた。これらのことは、イワヒメワラビ群落の土壌保全効果が高いことを示している。伐採跡地のイワヒメワラビ群落では調査区あたりの森林生種数の割合が最も大きく、その種数は二次林の種数を上回っていた。また、種組成を群落間で比較したところ、伐採跡地のイワヒメワラビ群落には二次林の構成種の大半が出現していた。これらのことから、イワヒメワラビ群落の種多様性保全効果、特に森林生種の多様性を保全する効果は高いと考えられる。従って、イワヒメワラビを用いた伐採跡地の緑化は有効であるといえる。ただし、場合によっては柵工や枠工などの緑化補助工を併用する必要がある。また、伐採跡地の森林再生を図るためにはシカの個体数管理や防鹿柵の設置が必要である。
- 日本生態学会の論文
- 2008-11-30
著者
-
服部 保
兵庫県立大学自然・環境科学研究所
-
黒田 有寿茂
兵庫県立大学自然・環境科学研究所
-
藤木 大介
兵庫県立大学自然・環境科学研究所
-
石田 弘明
兵庫県立大学自然・環境科学研究所
-
松村 俊和
神戸大学大学院人間発達環境学研究科
-
澤田 佳宏
兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科
-
藤木 大介
兵庫県立大学自然・環境科学研究所:兵庫県立人と自然の博物館自然環境マネジメント研究部
-
小舘 誓治
兵庫県立大学自然・環境科学研究所
-
服部 保
兵庫県立人と自然の博物館自然・環境再生研究部
-
石田 弘明
兵庫県立人と自然の博物館自然・環境再生研究部
-
服部 保
神戸大学自然科学研究科
-
服部 保
兵庫県立人と自然の博物館:姫路工業大学自然・環境科学研究所
-
服部 保
神戸大学大学院自然科学研究科
-
澤田 佳宏
兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科:兵庫県立淡路景観園芸学校
-
澤田 佳宏
兵庫県立大学自然・環境科学研究所:兵庫県立淡路景観園芸学校
-
服部 保
姫路工業大学自然環境科学研究所:兵庫県立人と自然の博物館
-
石田 弘明
兵庫県立大学 自然・環境科学研究所兵庫県立人と自然の博物館
-
小舘 誓治
兵庫県立大学自然・環境科学研究所:兵庫県立人と自然の博物館
-
服部 保
兵庫県立大学 自然・環境科学研究所
-
松村 俊和
兵庫県阪神北県民局宝塚農林振興事務所
-
ISHIDA Hiroaki
Institute of Natural and Environmental Sciences, University of Hyogo
-
黒田 有寿茂
兵庫県立大学自然・環境科学研究所:兵庫県立人と自然の博物館
-
澤田 佳宏
兵庫県立大学:兵庫県立淡路景観園芸学校
-
松村 俊和
甲南女子大学
-
藤木 大介
兵庫県立大学大学院:兵庫県森林動物研究センター
-
澤田 佳宏
兵庫県立大学
-
石田 弘明
兵庫県立大学 自然・環境科学研究所
-
黒田 有寿茂
兵庫県立大学 自然・環境科学研究所
-
黒田 有寿茂
兵庫県立大・自然・環境
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