てん菜主根の肥大に関する形態学的研究
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概要
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てん菜の収量は,最終的には単位面積あたりの根重と根の平均含糖率との積によって表わされることになるので,収量を増加せしめるためには,根の含糖率を向上せしめるとともに,根重の増加をはからなければならない。根重を増加せしめるためには,主根の肥大生長の機作を究明することが必要であり,そのためには,まず,植物解剖学的知見,特に通導組織の連絡の経路が明らかにされること,次に,植物生理学的知見,特に光合成生産物の収支の関係などが明らかにされる必要がある。本研究は,てん菜の器官の形態学的関係を明らかにしつつ,器官相互の形態的量の相関を求めることによって,葉における光合成機能が地下部の形態形成にいかに反映しているかを知るとともに,てん菜の個体としての解剖学的構造を明らかにすることを目的として行なわれたものである。主根の肥大には,地上部の発達が大きな関係をもっており,出葉周期,各葉の最大葉面積,葉寿命ならびに時期別生葉数を調査した。てん菜の出葉周期は2〜3日とみられ,生育の全期間を通じてほぼ一定である。葉面積,葉寿命は初期の数葉が比較的小さい値を示すが,生育が進むとその値は急速に大きくなり,生育の後半に至って再び小さくなる。また,時期別生葉数は,初め急激に増加するが,生育の後半の枯葉数の増加に伴って減少する。主根の横断面に見られる維管束環の増加と葉数の増加との関係は,放物線で表わされ,葉数はほぼ一定の速度で増加するが,主根の維管束環は生育の初期に急速に形成され,生育が進むに従って,その形成の速度は遅滞する。形成された維管束環層組織は著しく増量し,主根は肥大する。また,維管束は葉部と通導的連絡を保つようになる。葉柄の維管束と主根の維管束環を構成する維管束との間の維管束走行を追跡し,てん菜の形態学的構造を解析した。葉柄の維管束は冠部の維管束と連絡し,下降して主根に至るが,冠部において外側の古い葉の葉柄からの維管束と若い葉の葉柄からの維管束が交差し,古い葉からの維管束は主根の内方の維管束環を構成する維管束と連絡を保ち,若い葉からの維管束は,主根の表皮に近い維管束環を構成する維管束と連絡を保つものと認められた。葉柄から冠部にはいって葉跡となった維管束は,いずれもその節において大部分が冠部の最内層の維管束環を構成する維管束となるが,冠部最内層の維管束環に至る途中で,葉跡維管束が分岐し,分岐した小維管束は,外側の1〜2層の維管束環と連絡を保つ。すべての葉跡はこのような連絡をするので,その上下数葉とも直接連絡を保つこととなる。また,1葉の葉柄から冠部にはいった維管束は,葉序の関係から,1維管束環の5/13の部分と関係を保っているものと考えられる。主根における維管束組織の構造は,層状の円錐面をなして走行する維管束が,各円錐面に沿って集合離散を繰返すために網状として観察されることが認められた。また,主根に見られる根のねじれは,主根の肥大生長の過程で起こり,維管束環組織の肥大する部位が主根のcentral coreを中心として旋回するために起こるものであると考えられる。主根の著しい肥木は,第2次形成層環の活動によるもので,第2次形成層環数が主根の肥大にいかなる関係をもつかを調査したところ,根径と主根の横断面に見られる維管束環数との間にかなり高い正の相関関係が認められた。したがって,主根の肥大には第2次形成層環数が密接な関係をもっているものと考えられる。主根の第3次肥大生長において,特定の本葉が主根の特定維管束環の一部と密接な通導的連絡を保つものとすれば,剪葉処理の影響は,主根の特定の維管束環に現われるべきである。以上の前提に基づき剪葉処理を行なったところ,剪葉された葉と密な連絡をもつと考えられる主根の特定部位の肥大が抑制されることが認められた。剪葉処理の第2次形成層環の細胞分裂の機能と分裂した細胞の肥大生長に及ぼす抑制的影響の程度を知るために,冠部の生長点を境に片側葉をすべて剪除し,維管束環の間隔と,その間に含まれる細胞数を無処理側と比較した。その結果,剪葉処理は主根の第2次形成層環の細胞分裂の機能と分裂した細胞の肥大生長の双方を抑制するが,その程度は,分裂した細胞の肥大生長より,第2次形成層環の細胞分裂の機能に対する抑制作用のほうが大きいことが認められた。てん菜の葉序は5/13であり,主根の1維管束環は,冠部における葉の配列に基づいて,13/5=2.6葉と密接な構造的関連をもつことを前提とし,各維管束環に対応する2.6葉の機能が,維管束環層組織の肥大といかなる量的関係をもっているかを知るため,各維管束環層の平均体積と,これと密接な関連をもつと考えられる2.6葉の平均葉面積,ならびに葉面積と葉寿命の積の平均との間の相関を求めた。両者の間にはそれぞれきわめて高い正の相関が認められ,てん菜主根の各維管束環に含まれる形成層に由来する組織の体積は,それと関連の密な葉の葉面積,ならびに葉面積と葉寿命の積に強く支配されていることが判明した。以上の結果から,てん菜では,地上部と地下部の形態的関係がきわめて規則的かつ密接で,維管束の走行経路にしたがって,葉から根に至る一連の組織が,葉序と関連してunitを形成し,このunitの結合として個体が形成されていると考えることができる。
- 帯広畜産大学の論文
- 1971-09-16
著者
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