有明海奥部における夏季の貧酸素水発生域の拡大とそのメカニズム

概要

論文の詳細を見る
有明海奥部では,海雨期の大雨により塩分成層が形成され,その後の盛夏の水温上昇期に,2001年以降毎年,底層で貧酸素水が観測されている。貧酸素水(本稿ではDOが4.0mgL^<-1>未満の海水をあらわす)の発生域は奥部の水面下4〜7m以深のほぼ全域へ拡大し,DO値もさらに低下する傾向(1.93mgL^<-1>まで低下)が認められている。このような貧酸素水発生の原因は,同海域で頻発する大規模な赤潮により,直下の海底への有機物負荷量が増加したためである。そして,底質の有機物含量に増加傾向が認められているので,この現象はさらに深刻化する可能性がある。大規模な赤潮が発生する一方で,陸域からの栄養塩負荷量は増加していない。このために,大規模赤潮および貧酸素水の発生に共通する海洋構造の条件として,表層水の塩分低下による成層の形成が挙げられる。有明海奥部の秋季の赤潮は1998年より大規模化したことを考慮すると,1997年の諌早湾潮受け堤防締めきりで諌早湾および有明海奥部の潮流の減少が生じ,成層が形成されやすくなり,大規模な赤潮が発生し,海底への有機物負荷量が増加して,貧酸素水が発生するようになったと推測される。
日本海洋学会の論文
2007-05-05