豚骨格筋6Sα-アクチニンが筋タンパク質の死後変化に及ぼす影響について
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概要
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筋タンパク質に関する研究は, 従来主として筋生理学に関する分野から進められ, 筋収縮弛緩機構がかなり詳しく説明されつつある.その研究の過程において, 新たに種々の調節性タンパク質が見出されてきたが, その一つが本研究でとり上げた6Sα-アクチニンである.このタンパク質は, 生筋中ではZ線に局在していると考えられているが, おそらく死後局在しているZ線の部分から遊離し, 筋組織内に拡散して, 他の筋タンパク質およびその他の筋組織中の成分などと相互作用し得るようになるのではないかと考えられる.この6Sα-アクチニンの, 現在知られている特性の一つは, F-アクチンに結合し, F-アクチンの側面会合を促進して凝集体を生ぜしめる性質であるが, この特性は, 細いフィラメント中に常成分として存在するトロポミオシンによって阻害されることが知られている.著者は, 生筋中における6Sα-アクチニンの機能に関する従来の知見を基礎にして, 特に食品科学的見地から, 動物の筋タンパク質の死後変化との関連において, この6Sα-アクチニンの, 食用に利用される肉の品質, 特に肉の硬さに及ぼす影響を解明しようと考え, つぎのような研究を行なった.食品科学的見地からみると, 豚肉は最も重要な肉資源の一つであるが, 豚の骨格筋の6Sα-アクチニンについては, まだ殆ど検討されていないように思われるので, まず豚の骨格筋から6Sα-アクチニン, アクチン, ミオシン, トロポミオシン, トロポニン, 筋小胞体ATPaseを分離精製し, それぞれの性状を検討し, これらを実験試料として, 6Sα-アクチニンの特性である, F-アクチン凝集作用に対する, 死後の筋肉内の環境因子の影響と, 細いフィラメントに対する作用効果を調査し, これらの結果に基づいて, さらに細いフィラメントと太いフィラメントとの間の相互作用としての超沈殿に及ぼす影響について検討した.得られた結果は概要つぎの通りである.1.豚の6Sα-アクチニンを, 抽出分離はMASAKI and TAKAITIの方法, 精製はNONOMURAの方法によって調製したが, 得られた6Sα-アクチニンの性状を超遠心分析, アミノ酸分析などにより調査したところ, 既報の兎, 鶏の6Sα-アクチニンと, その性状がほぼ類似しており, また高純度であり, このタンパク質特有の活性も具備しているようであった.2.6Sα-アクチニンとF-アクチンの相互作用に及ぼす, 死後の筋肉内での環境因子について検討したところ, つぎのような点が明らかになった.この相互作用の環境至適塩濃度は, KClで0.1M付近であった.ATPおよび各種無機リン酸塩をそれぞれ10mMの濃度で, 中性の条件で作用させると, 6Sα-アクチニンとF-アクチンの比が1 : 4のとき, ATPでは完全に抑制され, トリポリリン酸塩では, ATPの約50%程度の抑制効果が認められたが, オルトリン酸塩とピロリン酸塩の影響は微弱であった。ATPによる抑制効果は, その濃度が8mM以下で弱まり, 漸次反応が起こってくるが, この濃度は生体内濃度に近く, 興味深い結果である.2価金属イオンについては, Ca^<2+>は殆ど影響しないが, Mg^<2+>は反応を促進する効果があることを示した.pHについては, 死後変化域であるpH7.0〜5.5の範囲で, pHが低下するにつれて反応が促進される傾向がみられた.トロポミオシンは, 微量でも反応を顕著に抑制した.また温度については, 38°〜10℃の範囲で検討したところ, 温度が低下するにつれて反応が促進される傾向がみられた.3.ATPの反応抑制効果は, 他の因子に比べて, 特に顕著であるので, 動物の筋組織中に生成するとみられる, 各種ヌクレオチドについて, その影響を検討したところ, この反応抑制効果は, 10mMの濃度で作用させた場合, ATP>IMP>AMP>ADPという順序で大きいことがわかった.このうち, IMPは, ATPの抑制効果の約50%程度の抑制効果を示し, 比較的顕著であったが, 他は微弱であった.つぎにATPの反応抑制機構について検討した結果, ATPは6Sα-アクチニンとは反応しないように思われ, F-アクチンには結合するようであるが, この場合, 0.1M KClの存在下にあるので, 高濃度のATPの存在によってもF-アクチンは容易に脱重合してG-アクチンに変換することはない.しかし, その線維の中には, ところどころで切断されて, 短かくなっているものも存在することが観察された.これは本研究で使用したF-アクチンに含まれるβ-アクチニンの効果のためであろうと考えられた.ATPとF-アクチンとの結合は, ATPの環境濃度によって支配され, 高濃度環境ほど多量のATPがF-アクチンに結合するようであるが, 結合量の経時的変化は認められなかった.
- 鹿児島大学の論文
- 1973-03-24
著者
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