トマトにおけるネコブセンチュウと萎ちょう病菌との複合病因による疾病論的考察
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概要
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トマトの萎ちょう病菌(Fusarium oxysporum SCHL. f. sp. lycopersici (SACC.) SNYD. et HANS., race J1) とサツマイモネコブセンチュウ(Meloidogyne incognita (KOFOID & WCHTE) CHITWOOD)との複合病因による病害について疾病論的観点からその特性を考察した.この研究で,線虫関連病害における複合病の範囲を明確にし,その特性から真正複合病,併発性複合病,不定性複合病を定義した.複合病発現の実態 1)線虫汚染圃場と非汚染圃場で3品種のトマトを2年間3連作したときの萎ちょう病の発病状況から,線虫汚染圃場における萎ちょう病の多発生がネコブセンチュウとの複合病因によることを明らかにし,これを真正複合病と認定した.またその発症経過からみて,ネコプセンチュウの寄生が原発病,萎ちょう病は続発病であると考えられた.萎ちょう病感受性の松戸ポンデローザは,他の抵抗性2品種,強力米寿,豊錦と比較して線虫汚染圃場での萎ちょう病の発病傾向が顕著であった.2)トマト28品種を用いたポット実験の結果,萎ちょう病感受性の3品種は,線虫汚染土壤でいずれも萎ちょう病が激発し,非汚染土壌とくらべて発病が著しく助長された.一方萎ちょう病抵抗性品種では,その大部分が,線虫汚染條件下で萎ちょう病の発病が増し,萎ちょう病抵抗性が弱まった.しかし発病増加の程度は品種により大きな差が認められた.3)トマト18品種を用いて圃場実験を行なった結果,萎ちょう病感受性品種の米寿は,線虫高密度汚染圃場において低密度汚染圃場よりも萎ちょう病の発病が著しく助長された.また萎ちょう病抵抗性品種のうち,線虫高密度圃場で発病が激しかったものは,あづさ,栄寿,南光2号, TVR-2,王星MRであった.その他の品種は線虫高密度汚染区でも萎ちょう病の発病が少なかった.4)以上のことから,トマトにおける萎ちょう病菌とネコブセンチュウによる複合病は,両者による汚染條件下で高い頻度で起こる可能性があり,かつ単一優性遺伝子をもつ萎ちょう病抵抗性品種においてその抵抗性が失われやすいことが明らかとなった.混合接種による複合病の発現 1)病原菌と線虫とを接種濃度別にそれぞれ組合わせて同時接種したときの複合病の発現を検討した.萎ちょう病感受性の松戸ポンデローザでは,線虫・菌混合接種区において病原菌の接種濃度を増すよりも線虫の接種濃度を増したときに萎ちょう発病指数が激増し,かつ発病が早まる傾向があった.一方,萎ちょう病強抵抗性の興津1号では病原菌濃度を著しく高めたにも拘わらず,萎ちょう病の外部病徴はまったく認められなかった.2)病原菌と線虫の同時または時差接種による萎ちょう病の変化について松戸ポンデローザを用いて検討した.各接種区のうち,萎ちょう病がもっとも激しく発病したのは,両病原をトマトの播種10日後または26日後の同時接種区であった.時差接種したものでは,播種10日後に病原菌を接種し,その16日後に線虫を接種したとき,その逆の順序で時差接種したときより萎ちょう病の進展が激しかった.線虫・菌混合接種の中で萎ちょう病が急速に進展した場合は,根部のゴール指数が低下する傾向があった.3)病原菌と線虫の同時または時差接種による萎ちょう病の変化を萎ちょう痛感受性品種と抵抗性品種で比較した.感受性品種の松戸ポンデローザでは,両病原を同時に接種するか,または病原菌を先に接種して14日後に線虫を接種したときに萎ちょう病の発病が激しかった.一方萎ちょう度抵抗性品種の強力米寿,豊錦でも,それぞれの接種区における萎ちょう病の発病傾向は感受性品種の場合と変らなかった.しかし発病の程度は,各品種の間で明らかな差があった.4)トマトの生育時期別の複合病の発現を比較した.生育日数の異なる萎ちょう病感受性トマト(松戸ポンデローザ)に病原菌を単独接種したときの萎ちょう病の発病は,播種後29日または36日のもので激しかったが,菌と線虫を同時接種したときは,苗令の若いものほど枯死株率が高かった.また苗令別に病原菌と線虫とを7日間隔で交互に時差接種したトマトでは,いずれの生育時期のものも菌を先に接種した方が発病率が高かった.5)線虫の接種形態別に病原菌と同時接種したときのトマト(福寿2号)における萎ちょう病の発生をくらべると,2期幼虫接種では病徴が急速に進展し,最終調査時の発病指数が91.7%に達したのに対し,卵塊接種区では21.6%であった.また両病原を時差接種したときの発病傾向は,2期幼虫または卵塊を菌より10日前に接種したものでは,接種原別に大差がなく,発病指数は全般に低かった.逆に菌を先に接種したものは,2期幼虫接種で急激に進展したが,卵塊接種では発病指数が低かった.混合感染の経過と複合病の発現 1)病原菌とネコプセンチュウ(2期幼虫)を同時接種した萎ちょう病感受性トマト(松戸ポンデローザ)では,2日後にすでに根の先端付近に侵入した多数の線虫が検出され,その後次第に増加した.一方地上部の萎ちょう症状は接種8日後から現われ,以後急激に進展した.2)病原菌と線虫との混合感染は,接種4日後一部の不定根で最初に認められ,その後1次根にも認められたが,根群全体からみて一部分の根で起こるにとどまった.混合感染の症状は,まず根の先端付近でゴール組織が局部的に壊死を起こしたが,やがて上方部のゴール組織にも進展した.症状が進んだ個体では,根の中心柱,および茎の維管束部に顕著な褐変が認められた.3)根部組織の病態解剖学的観察から,2期幼虫の単一個体が寄主体に侵入した箇所に生ずる機械的損傷は病原菌の侵入門戸とはならないと判断した.最初に起こった混合感染部位の病変は,まず根先端部の原始分裂組織や原中心柱に対する2期幼虫の集団的な侵入により組織が著しく破壊され,そこに侵入する機会を得た病原菌が増殖し,結果的に病原菌独自による顕著な感染が進行したものと考えられた.また,すでに形成されたゴール部位における混合感染は,巨大細胞や導管組織とその周辺部柔組織で顕著あり,他部位と比較しておびただしい密度の菌糸が蔓延していた.4)以上の混合感染部位の病変に続き,根および茎の導管組織における菌独自の蔓延が一層旺盛となり,萎ちょう病の症状が激化するものと推察された.寄生性の異なるFusarium菌と線虫とによる複合病の発現 1)トマトに萎ちょう病菌ならびに寄生性の異なる2種の分化型菌をそれぞれネコブセンチュウと同時接種し,複合病の発現を検討した結果,供試したいずれの分化型菌もトマトに萎ちょう症状の発生をもたらした.しかし萎ちょう菌と線虫とを混合接種したものとくらべて発病程度は軽かった.同様な実験をキュウリ,スイカ,マクワウリ,カボチャ(台木用)で行なったところ,供試植物によって病徴の発現程度に差がみられた.2)各分化型菌と線虫とを混合接種したときの根部病徴は,局部型の壊死症状と蔓延型の褐変症状に類別され,地上部に病徴が現われた罹病個体では蔓延型の症状を呈するものが多かった.これらの根部感染組織からは接種した分化型菌がそれぞれ高頻度で再分離された.3)根部感染組織の病態解剖学的観察で,ゴール部位の巨大細胞や導管組織内に菌糸が著しく蔓延し,混合感染の症状が認められた.複合病の発現と根圏微生物相の変化 1)線虫汚染区と非汚染区の実験圃場で栽培したトマトにおける萎ちょう病の発病と根圏微生物相の変動との関連性を検討した.萎ちょう病発生前における松戸ポンデローザの根圏微生物数の変動は,線虫汚染区では5月中旬にF. oxysporumの密度が高く,その後減少し,6月中は色素耐性細菌の密度の増大が目立った.非汚染区では線虫汚染区よりもやや緩やかな変動傾向を示した.一方豊錦の根圏微生物相は線虫汚染区と非汚染区の間でさほど目立った差異はみられなかった.2)松戸ポンデローザの萎ちょう病発病個体における根圏微生物相は,非汚染区にくらべて,線虫汚染区で変動が大きく, F. oxysporum,糸状菌,全細菌,色素耐性細菌の密度が高かった.また,萎ちょう病菌の感染根と未感染根の根圏微生相に差異がみられた.3)線虫と菌を混合接種した滅菌土壤におけるトマト(松戸ポンデローザ)では同様に接種した非滅菌土壌のものとくらべて萎ちょう病の発生が著しかった.そのときのトマト根圏微生物相の変動は両土壤の間で異なり,非滅菌土における線虫・菌接種区で特異的な密度変動がみられ,とくに色素耐性細菌の増大とF. oxysporumの減少が注目された.4)ゴール組織表層における病班部の糸状菌層は,健全部にくらべて多様化し,しかもFusarium solaniがF. oxysporumに変って優占した.ゴール組織浸出液が病原菌の生育におよぼす影響 1)松戸ポンデローザ,豊錦の線虫感染根と健全根の各浸出液を用いて病原菌の生育を比較した結果,萎ちょう病菌の菌糸生育は両品種とも前者で著しく旺盛であり,また分生胞子ならびに厚膜胞子の発芽も促進する作用が認められた.
- 千葉大学の論文
- 1983-12-25
著者
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