プレウロタリス属(ラン科)の核形態
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概要
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筑波実験植物園には,東京大学第1次東亜関連植物調査・環太平洋班(1965〜1966),同・第2次(1968〜1971)などによって採集された多数の南米産ラン科植物が系統保存されている。Pleurothallis属は熱帯・亜熱帯アメリカに産し,約1,000種を含む多形的な植物群で,当園には28種と未同定の数種が栽培されている。本属の核形態学的性質を明らかにする目的で,このうち23種(未同定の2種を含む)の静止期,分裂期前期,分裂期中期の染色体の観察を行ない,次のような結果を得た。1. 23種において,2n=20, 32, 34, 36, 38, 40, 42, 43, 45, 64, 68, 76, 77, 80,84の染色体数が明らかになった(Table 1, Figs. 1〜23)。2. 観察した全ての種の静止期核には,多数の染色小粒と,それぞれの染色体数より少ない数の,大小の染色中央粒が観察された。染色中央粒の大きさは種によって異なり,次の3型を区別することができた(Fig. 24)。Type A:染色中央粒は直径0.2〜0.6μmと小型で,小さいものは染色小粒と区別がつきにくい。P. bivalvis, P. chanchamayoensis, P. matudiana, P. revoluta, P. tridentata, P. velaticaulis, P. sp. (TBG 32889A)に見られた。Type B:明瞭に区別できる直径0,3〜1.0μmの中型の染色中央粒をもつ。P. alopex, P. brevipes, P. grobyi, P. luteola, P. restrepioides, P. ruscifolia, P. saccatilabia, P. teres, P. xanthochloraとP. gelidaの2n=64の個体に見られた。Type C:直径0,4〜1.6μmの,大型で顕著な染色中央粒を持つ。P. aurantio-lateritia, P. carinata, P. obovata, P. pachyglossa, P. segoviensis, P. aff. coffeicolaとP. gelidaの2n=32の個体に見られた。Type AはTanaka (1971)の単純染色中央粒型と見なされる。Type BとType Cは,観察される染色中央粒の数がそれぞれの染色体数の50〜70%と比較的高く,球形前染色体型に近い。P. aurantio-lateritia, P. teresおよびP. gelidaの2n=32の個体では,染色中央粒が各々の染色体数の70〜90%観察され,Tanaka (1971)の球形前染色体型と見なされる。3. 分裂期前期では,動原体の基部よりに早期凝縮部が観察されたが,凝縮部の大きさ,凝縮の強さ,端部の晩期凝縮部への移行のしかたには染色体間で,また種間で変異が見られた。4. 分裂期中期染色体は長さ0.4〜1.6μmと小型で,多くの種は染色体間の長さの差も小さかった。P. aff. coffeicolaでは,約半数の染色体が次端部ないし次中部原体型であったが,その他の種の,動原体が観察された染色体の多くは,中部ないし次中部動原体型であった。5. 種内倍数性がP. gelida (2n=32, 64) (Fig. 7)とP. revoluta (2n=40, 80) (Fig. 14)に認められた。このうちP. gelidaの両系統間では静止期核形態にも違いが見られた。6. P. obovataで,2n=42, 43, 45の種内異数性が観察された。これらの系統間では静止期核の染色中央粒の数に差があり,分裂期前期ではそれぞれに. 2, 3, 5個の凝縮塊が観察された(Fig. 11)。このことから,異数性の原因としてB染色体の存在が推察される。Pleurothallisは外部形態の多様な属として知られているが,以上の結果から,核形態,特に染色体数と静止期核の形態においても多様性を示すことが明らかとなった。一方,属内で外部形態的にまとまった群と考えられているLindley (1859)のSect. Macrophyllae-Fasciculataeに入るP. alopex, P. bivalvis, P. chanchamayoensis, P. matudiana, P. tridentataの5種は,静止期核形態でも互いによく似ており,Sect. Macrophyllae-Fasciculataeが自然分類群であるとする考え方が支持される。
- 国立科学博物館の論文
- 1983-10-01
著者
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中田 政司
Botanical Institute Faculty Of Science Hiroshima University
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中田 政司
国立科学博物館筑波実験植物園
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橋本 保
国立科学博物館筑波実験植物園
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