サカネラン属の新種
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
鹿児島県の標高100mにも達しない鶴田ダムの下方(南側)で大平豊氏が採集されたランである。Neottia (サカネラン属)の新種と認め,ここに発表する。本種の蘂柱の形を観察すると,花期には鈍三角形の柱頭裂片二っ(2片をあわせると,中央に凹みのある逆梯形に見える)と楕円形の小嘴体が共に直立し,葯はやや後方に反り,葯の下には短いが明瞭な花糸が,とくに発達初期の花で認められる。これらの形質のうち,花糸の存在はChen(1979)によればArchineottia属(日本からもA. japonica Furuseが発表されている)の重要な一形質であるというが, Neottia属には柱頭裂片や小嘴体が発達しないという。しかし本種以外の例では,前川(1971)がN. asiatica Ohwi (ヒメムヨウラン)に小嘴体と花糸が共にあることを図示している。これらの事実から考察し,その他の形態が各種類間で類似していることを勘案すると, Chen説による属の概念は再検討する必要があると思われる。属の基準種であり,かつまた類縁が近いと思われるN. nidus-avis (L.)L. C. Rich. (エゾサカネラン,冷温帯性)と比べると,本種は丈が低く,花軸と子房に腺毛があり,唇弁の先の裂片がさらに短い。N. nidus-avisの柱頭裂片は極めて短く,葯は蘂柱の上に直接乗っている(Rasmussen 1982)。中国・四川から発表されたN. brevilabris Tang & Wangは発表された記載や図からみると最もよく似た種類のように思えるが, N. brevilabrisは丈が40cmほどにもなり,花はより小さく(Tang & Wang 1951),柱頭裂片はほぼ円形という(Chen 1979)。日本の代表種であるN. papilligera Shltr. (N. nidus-avis var. manshurica Komarovサカネラン,冷温帯性)も丈は一般に高い。茎と花柄子房には密な腺毛があり,唇弁の先の裂片は細長くて両側に開いているし,柱頭裂片の発達も少ないので明かな別種である。
- 国立科学博物館の論文
- 1991-12-25
著者
関連論文
- 2000年および2001年にバヌアツにおいて採集した被子植物の押し葉標本リスト (バヌアツ植物相の研究 第2集)
- 1996年および1997年にグランドテール島(ニューカレドニア)とビチレブ島(フィジー)で採集した〓葉標本および生品リスト (バヌアツ植物相の研究)
- 1996年および1997年にバヌアツにおいて採集したシダ植物のリスト (バヌアツ植物相の研究)
- 1996年および1997年にバヌアツにおいて採集した〓葉標本リスト(ラン科植物を除く) (バヌアツ植物相の研究)
- 南ペルー産顕花植物の細胞学的研究 : III. ランの染色体
- プレウロタリス属(ラン科)の核形態
- 1996年および1997年にバヌアツにおいて採集した植物生品リスト (バヌアツ植物相の研究)
- 日本産ヤチラン属の新種と新記録種
- バヌアツ産ラン科植物の研究:I (バヌアツ植物相の研究)
- 1996年にバヌアツで採集したラン科植物リスト (バヌアツ植物相の研究)
- ニューカレドニア産Agatea violaris (スミレ科)の染色体数と核型
- バヌアツ国ケレプア渓谷における民族植物学的記録
- ラン科Pachyplectron属第3の種
- バヌアツ産Earina属(ラン科)の2新種
- ボリビア産ラン科名覧
- サカネラン属の新種
- 筑波実験植物園で保存されているフィリピン産ラン科の新種と新産種
- 日本産ムヨウラン属の検討
- ラン科植物分類雑記(4)
- ラン科植物分類雑記(3)
- ニョイスミレにおける種内変異と土壌環境の関連について
- 熱帯降雨林温室における温度制御について
- 筑波実験植物園建設着工当時の植生とその後の変化
- 台湾産タチツボスミレ類