筑波実験植物園で保存されているフィリピン産ラン科の新種と新産種
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
フィリピン産として筑波実験植物園で栽培されているランのうち, 2新種と1新変種を記載する。また1種を新産として報告する。Trichoglottis apoensis Hashimotoは時に温室で栽培されるL. rosea (Lindl.) Amesの仲間であるが,葉はより長くて狭く,小苞は花柄子房に密着し,花は芳香があり,斜開する各萼片と側花弁の内側に淡紅紫色あるいは褐色の小斑点がなく,唇弁の側裂片は白色で先の方で反巻し,中裂片も白色で殆ど方形,粘着体が花粉塊の柄の長さの半分以上になる,などの明らかな違いがある。1980年にミンダナオ島・アポ山の中腹で著者が採集し,以来筑波実験植物園の実験温室で栽培していたが,1988年2月にはじめて開花した。その後は毎年同時期に開花している。T. latisepala var. tricarinata Hashimotoは T. apoensisに近縁な種類で,葉鞘や葉身の基部付近に紫斑が多く,葉縁ははっきりと下に曲がり,葉身の反対側に出る花序の花数が多く,花は無香でほぼ平開し,白色の唇弁中裂片を除けば花柄とともに濃色部分のある淡紅紫色,側萼片の基部にある耳状付属片が長く,唇弁中裂片の基部に3列の微小な隆起があり,側裂片はほぼ直立して先の方で反巻することがなく,距は明瞭にくびれている。これらの特徴はすでに発表された近縁種の形態が充分に記録されていないこともあって比較できないところもある。しかし文献および基準標本の写真によってT. latisepala Amesの変種とするのが適当と考えた。基準変種と比べると側萼片の基部にある耳状付属片が短く,唇弁の中裂片が長方形で,その基部に3裂の微小隆起があるのが新変種の特徴である。この植物は堂が島洋蘭センター(静岡県)の内田一仁氏によって,おそらくフィリピンから購入された株の一部を新宿御苑に寄贈され, 1988年に新宿御苑の株分け品を筑波実験植物園に移譲されたものである。Tuberolabium calcaratum Hashimotoは3年ほど前にヒロタ・インターナショナル・フラワー社長(神奈川県)の広田哲也氏によって日本に紹介された。氏によればこの植物は初めElias Javier(エリアス・ハビエル)氏によって採集され, "Hymenorchis javieri"の名でフィリッピンのマーケットで販売されているという。広田氏の所から出た株は日本国内の数カ所で販売されているという。大場蘭園(千葉県)のカタログ('89 Autumn〜'90以降)には「Hymenorchis javieriiヒメノルキス・ジャビエリー」の名でカラー写真ものっている。研究に用いられた株はこれらとは別に江尻宗一氏(千葉県)がフィリピンの業者を経て導入されたもので,産地のデータを添えて鑑定を依頼されたものだが,もともとの出所はおそらく同じと思う。本種はTuberolabium (コウトウラン属)の中で,花序が短く,小嘴体が明瞭なTrachoma類に属する。Trachoma類の他の種に比べて,葉の先は微小な刻みがあるものの,ほとんど鋭頭,花は唇弁を除き赤味のある橙色,唇弁は距が細長く,中裂片の下に衝角状の突起があるのが著しい。本種がフィリピンでHymenorchisの一種とされていた理由は,おそらく細長い距が唇弁の後方に伸びていること,および類似のフィリピン産の種類に"Hymenorchis vanoverberghii (Ames) Garay"の名が与えられているためで, Garay博士の説に従ったものと推察する。しかしこの2種は, Hymenorchisに特有の微細な鋸歯縁のある萼片と側花弁ではなく,萼片の背面の隆起線もないのでTuberolabiumの一種と考えるのが妥当であろう。近年におけるSubtribe Sarcanthinaeの属の概念は採りあげられる形質が微妙で,再検討する必要がありそうだが,この問題は今後の研究に俟つ。Dendrobium podagraria Hook. f.はインド北東部,ビルマ(ミャンマー),べトナムおよびタイに分布していることが知られており,これまでフィリピン産の報告はなかった。岡田正順博士が数年前バギオで"D. crumenatum"の名で購入され,自宅の温室(茨城県)で栽培されていたものを株分けして戴いたのが本種であった。この種類は植物体がルーズで花も目立たず,鑑賞価値が殆ど無いので元は山採り品と推定するのが順当であろう。著者が知る限り,これまでの記録にあるような唇弁の側裂片に赤条はなく,わずかにかすれた赤紫色の斑点がある。そのかわり,これまでの記録にはない黄色部分が唇弁の肉質隆起と,そこから延びる縦に平行な2本のバンドを染めている。
- 国立科学博物館の論文
- 1991-12-25
著者
関連論文
- 2000年および2001年にバヌアツにおいて採集した被子植物の押し葉標本リスト (バヌアツ植物相の研究 第2集)
- 1996年および1997年にグランドテール島(ニューカレドニア)とビチレブ島(フィジー)で採集した〓葉標本および生品リスト (バヌアツ植物相の研究)
- 1996年および1997年にバヌアツにおいて採集したシダ植物のリスト (バヌアツ植物相の研究)
- 1996年および1997年にバヌアツにおいて採集した〓葉標本リスト(ラン科植物を除く) (バヌアツ植物相の研究)
- 南ペルー産顕花植物の細胞学的研究 : III. ランの染色体
- プレウロタリス属(ラン科)の核形態
- 1996年および1997年にバヌアツにおいて採集した植物生品リスト (バヌアツ植物相の研究)
- 日本産ヤチラン属の新種と新記録種
- バヌアツ産ラン科植物の研究:I (バヌアツ植物相の研究)
- 1996年にバヌアツで採集したラン科植物リスト (バヌアツ植物相の研究)
- ニューカレドニア産Agatea violaris (スミレ科)の染色体数と核型
- バヌアツ国ケレプア渓谷における民族植物学的記録
- ラン科Pachyplectron属第3の種
- バヌアツ産Earina属(ラン科)の2新種
- ボリビア産ラン科名覧
- サカネラン属の新種
- 筑波実験植物園で保存されているフィリピン産ラン科の新種と新産種
- 日本産ムヨウラン属の検討
- ラン科植物分類雑記(4)
- ラン科植物分類雑記(3)
- ニョイスミレにおける種内変異と土壌環境の関連について
- 熱帯降雨林温室における温度制御について
- 筑波実験植物園建設着工当時の植生とその後の変化
- 台湾産タチツボスミレ類