ブユアイソザイムの遺伝生化学的研究 : II. グァテマラにおけるオンコセルカ症媒介ブユ Simulium ochraceum の自然集団における遺伝的変異性および遺伝的分化
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概要
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グァテマラにおけるオンコセルカ症媒介ブユSimulium ochraceumについては, 先に上本(1984)が形態分類学的研究を行い, 3種のsibling species(姉妹種)に分類しうると提唱した。その後, 平井(1985)は染色体分析により同様に3種類のsibling speciesが存在すると報告した。本研究では, 上本(1984)および平井(1985)が行った地域と同一地域の幼虫および成虫のアイソザイムパターンを分析し, 彼らの提唱したsibling speciesについて集団遺伝学的観点から検討を加えた。調査は非流行地域であるFinca La Ruda, 低流行地域のFinca Rinconおよび高度の流行地域Finca BroteおよびFinca Recreoの4地域で行い, 幼虫および成虫集団合わせて六つの集団を分析した。その結果, まず調べた8酵素のうち, AK, ALP, HK, IDH, LAP, MEの6酵素は, すべて集団内および集団間にまったく変異を示さず, いわゆるmonomorphismであることがわかった。しかし残りの2酵素GPIおよびPGMは変異を示し, どの集団でも高度に多型的(polymorphic)であった。X^2 testを用いてハーディ・ワインベルグの法則からのずれを検定した結果, 有意の差がみられず, 各集団ともランダムな交配をしているものと考えられた。平均へテロザイゴシティーH^^^-や多型を示した遺伝子座の割合Pの値は, それぞれ0.084,0.234であり, 他種の多くの集団で従来より得られた値とほぼ同様の値であった。次に集団間の遺伝的分化の程度を調べるため, F_<ST>およびG_<ST>を求めた結果, 流行地域であるFinca La Rudaの集団のみが, 他の集団から大きく分化していることがわかった。またNei (1975)の遺伝距離の値も, このFinca La Ruda集団が他の集団から遠く隔たっていることを示した。この遺伝的にかけ離れた集団は, 平井(1985)が提唱したsibling species "C"に, さらに互いにほとんど差を示さなかった残りの5集団は, すべて平井(1985)のsibling species "A"に相当するものであり, 今回のアイソザイム分析は, 染色体分析とほぼ一致することがわかった。ただgenetic distanceの値が, 従来得られてきた別種間の値よりかなり低く, むしろ地方品種間の値に相当していることが注目された。しかし種分化は必ずしもアイソザイムの差異を伴うものではなく, ブユにおける種分化はむしろ前提として染色体の分化が先行し, 後にアイソザイム変異が蓄積するという過程をもつと考えることもできる。いずれにしても, これら二つのsibling speciesは, 分岐後の経過時間はかなり小さいものと思われた。
- 日本衛生動物学会の論文
- 1987-09-15
著者
-
吾妻 健
高知大・医・環境保健
-
吾妻 健
医学部看護学科基礎看護学講座
-
吾妻 健
高知医科大学・医
-
Ochoa A.
Laboratorio De Investigacion Cientifica Para La Enfermedad De Robles (oncocercosis)
-
Ochoa A.
Laboratorio De Investigacion Cientifica Para Control De La Oncocercosis
-
上本 騏一
京都府立医科大学医動物学教室
-
吾妻 健
高知医科大学 寄生虫
-
Onofre Ochoa
Laboratorio de Investigacion Cientifica para Control de la Oncocercosis
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