水田の節足動物相ならびにこれに及ぼす殺虫剤散布の影響 : 第 2 報水田の節足動物群集における種数および生息密度の季節的変動
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概要
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1954年および1955年に水田の節足動物を前報で説明したように徳島県下の代表的数地区の水田から約2週間間隔ですくい取り採集し, これを暦月別に一括して季節的変動を解析した.1. 科数と種数は水稲の生育繁茂に対応して増加し, 開花期の9月には103科(出現率77%)315種(出現率70%)でもっとも多かった.2. 月別1採集回あたり個体数は半翅目と双翅目が圧倒的に多く, 節足動物群集中における百分率は前者では7月の約6%から10月の約80%までS字型曲線状に高まり, 後者では7月の約75%から10月の約15%までほぼ直線状に低下し, 前者は水田後期に, 後者は水田前期にとくに優勢であった.3. 1採集回あたり個体数が1頭以上であった30種の個体数の季節的変動は7型に大別できた.ツマグロヨコバイ型は10月まで継続的に増加した.ヒメトビウンカ型は9月まで継続的に増加し10月には減少した.イネクダアザミウマ型は8月に増加し以後漸減した.ナカグロツヤユスリカ型は10月まで継続的に減少した.ヒゲブトキモグリバエ型は8月に減少し以後継続的に増加した.ハマキフクログモ型は7月と9月に多かった.シコクアシナガグモ型は9月まで継続的に減少したが10月にやや回復した.4. 食性別種数は, 食植性群では9月まで漸増して150となったが10月には激減した.食肉性群では8月に微増して173となったが以後やや減少した.水稲害虫群では8月に増加して31となったが10月には減少した.水稲害虫の天敵群では水稲害虫の約2倍で, これと同傾向の消長を示した.5. 水稲害虫群はすくい取り採集群中における個体数の百分率が7月の16%から10月の79%までほぼ直線的に高まり, 9月以降には50%以上を占めて圧倒的に優勢であった.その他の食植性群の個体数の百分率は7月の68%から10月の15%までほぼ一様に低下した.この両食性群の合計はつねに70∿90%以上を占めて絶対的に優勢であった.水稲害虫の天敵数の百分率は8月には微昇して9%となったが9・10月には2.5%に低下した.食肉性群全体の個体数の百分率は8月に微昇して22%となったが以後低下し10月には5%であった.6. 水稲害虫およびこの天敵の科別1採集回あたり個体数と百分率の季節的変動を示し, これらの変動理由を考察した.7. 水稲害虫数のこの天敵数に対する比は7月から10月までに2.3-3.6-23.5-31.4と変化し, 両群の合計群集中における天敵率は30.2-21.6-4.1-3.1と変化した.これらから, 7・8月は水稲害虫の天敵が強力な害虫防除能力を保持する時期であり, 9・10月は水稲害虫群が圧倒的に優勢を確保することにより天敵の害虫防除効果が現われない時期であると考えられた.8. 7月には捕食性群が水稲害虫の天敵の89%を占め, このうちの88%を真正蜘蛛目が占めており, クモ類は水田初期の水稲害虫の天敵としてきわめて重要な地位を占めていると考えられた.
- 日本昆虫学会の論文
- 1974-03-25
著者
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小林 尚
東北農業試験場:(現)農業研究センター
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小林 尚
東北農業試験場
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野口 義弘
徳島県農業試験場
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日和田 太郎
徳島病害虫防除所
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金山 嘉久正
徳島県麻植郡鴨島町農業協同組合
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日和田 太郎
徳島県農業試験場
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