将棋の序盤戦における知識を利用した着手決定
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
将棋の序盤戦を,知識を利用してプレーするシステムについて述べる。従来のゲームプレイングシステムにおいては,Brute Force Searchingに代表されるような発見的探索を用いて着手を決定していた。ゲームの中盤戦や終盤戦において,知識を利用して着手を決定する研究がなされてきたが,必ずしも発見的探索による着手よりも良い手を選べないのが現状である。一方,序盤戦においては,発見的探索によって良い手を選ぶことは困難である。序盤戦における着手の効果は,すぐさま評価関数によって評価し得る形に表われないたためである。人間の場合は,定跡と呼ばれる知識を用いて着手決定を行なっている。チェス・オセロ・将棋などをプレーする従来のシステムでは,定跡を手順のグラフ構造として保有し,それをたどることによって手を選ぶ方法が用いられてきた。しかし,この方法では定跡グラフ上のノートと同一局面でない限り,知識を活用することはできない。オセロやチェスのような序盤戦から激しい戦いになりがちなゲームにおいては,定跡グラフのノートがある程度限定される。しかし将棋のような序盤戦が静かなゲームにおいては,多少の手順前後や形の違いは問題がないことが多く,それらをすべてグラフ表現しようとすると,必要となるノート数は膨大になる.従来の将棋システムにおいては,多くても数万ノートしか保有していないため,実戦と同一局面になる確率はあまり高くない.例えば,次の定跡を考えてみる.〓7六歩〓3四歩〓2六歩〓4四歩〓4八銀〓3二銀〓5六歩〓4二飛〓6八玉〓6二玉〓7八玉〓7二玉〓9六歩〓9四歩〓5八金右〓8二玉〓3六歩〓7二銀〓6八銀〓5二金左〓2五歩〓3三角〓5七銀左〓6四歩(図1)わずか24手の定跡であり,[5]においては上記の手順と非常に簡単な説明が併せて一頁程度に述べられているに過ぎない.しかし人間の上級者の場合,手順以上の深い意味を把握し,様々な相手の変化に対して,その変化がその定跡を逸脱しているものなのかそうでないのかを的確に判断し対応する.例えば,・8手目に〓4二飛の代わりに〓6二玉を指して来たら,今後〓4二飛とすることができなくなるので,この定跡から外れたと考える.・6手目に〓3二銀の代わりに〓4二飛を指して来ても,単に順序が入れ替わった手順前後と考えて,定跡通りに〓5六歩と指す.・14手目に〓9四歩の代わりに〓1四歩を指して来ても,大きな変化とは考えずに定跡通りに〓5八金右と指す.などと判定する.ここでは,システムが人間のような対応をするのに必要な知識,推論方法について述べる.
- 一般社団法人情報処理学会の論文
- 1988-09-12
著者
-
山本 喜一
慶應義塾大学大学院理工学研究科
-
山本 喜一
慶應義塾大学理工学研究科 開放環境科学専攻
-
山本 喜一
慶応義塾大学理工学部
-
松永 賢次
専修大学経営学部情報管理学科
-
松永 賢次
慶応義塾大学理工学部
-
山本 喜一
慶應義塾大学
-
山本 喜一
慶応義塾大学
関連論文
- AspectFX:アスペクト指向によるRIA開発での協業を支援するフレームワーク(開発環境,インターネット技術とその応用論文)
- ソフトウェアの標準化(標準化よもやま話8)
- 官能評価の適用による人間中心設計 : 日本人とそれ以外の比較評価と現場の専門家による妥協性検証
- 契約と適合化 : エージェント・モデルに基づくワークフロー管理とコンポーネント結合
- 共生・寄生エージェント・モデルにおける「契約」 : ワークフロー管理への適用
- ソフトウェアコンポーネントのための結合性と分解性 : 共生・寄生モデルエージェントモデルに基づくコンポーネント
- 共生・寄生エージェントモデル(S/PAM)に基づくロボットプログラミング(ソフトウェアモデリング及び一般)
- 共生・寄生モデルエージェントモデル(S/PAM)に基づく可変&移動型ソフトウェアコンポーネント
- 共生・寄生モデルに基づくソフトウエア・エージェントによる情報バリアフリー支援の一構想
- D-13-2 動的エージェント構成機構を応用した情報検索システム
- D-13-1 移動エージェントのためのコード移送のモデル化
- 共生・寄生エージェントモデルに基づく交渉プロトコルマネージャ
- エージェントのための対話プランニング
- 共生・寄生エージェント・モデルに基づく移動エージェントの設計と実装
- 共生・寄生エージェント・モデルのワークフロー管理への応用
- 共生・寄生モデルに基づく進化的移動エージェント言語
- エージェントの動的拡張のためのエージェント構成機構の提案
- 1B-5 大規模RIAアプリケーション開発を支援するシステム(要求,開発手法,開発環境,一般セッション,ソフトウェア科学・工学)
- MobileStart : アプリケーションのシームレスな実行を支援するシステム(ミドルウェア,シームレスコンピューティングとその応用技術)
- MobileStart : アプリケーションのシームレスな実行を支援するシステム
- Mobicom : 部分的な移動性をもつアプリケーションを実現するためのフレームワーク(オフィスインフォメーションシステム応用,次世代ワークスタイル論文)
- SmartMobile : アプリケーションの部分的なオンデマンドローディングを支援するフレームワーク(ブロードバンドユビキタスネットワーク時代におけるインターネットアーキテクチャ論文)
- XFW:アドレス偽造に対応したオープンスペース用ネットワークアクセスサービスの実装と導入(モバイルコンピューティング,ユビキタス社会を支えるコンピュータセキュリティ技術)
- 情報処理学会創立40周年記念展示会 情報技術のエポック展報告
- 契約と適合化 : エージェント・モデルに基づくワークフロー管理とコンポーネント結合
- ソフトウェアコンポーネントのための結合性と分解性 : 共生・寄生モデルエージェントモデルに基づくコンポーネント
- ソフトウェアプロセスの新しい時代に向けて : プロセスワーキンググループが目指すもの
- 特集「情報の可視化」の編集にあたって ( 情報の可視化)
- 再利用可能なWebビジネス情報システムの設計について
- WWWにおける先読みページ選択手法に関する一提案
- オブジェクトフレームワークを用いたカードゲームプログラムの作成支援
- ユーザの閲覧情報を利用したWWWの情報検索支援
- Motion Groove : ライブステージ演出ツール
- 自動マクロ生成系における誤りや不要な操作を含む操作履歴からの繰返しパターンの検出
- ファクトベースを用いたヘルプドキュメントの生成(開発支援環境・自動化技術,ソフトウェア工学の理論と実践)
- 多機能ソフトウェアのオンラインチュータリングのための状況依存型作業プランニング
- 免疫的手法を用いた通信網管理用ポリシの選択手法(情報検索)
- 免疫的手法を用いた通信網管理用ポリシの選択手法
- 2.ドキュメンテーション技術の標準化
- 1.ソフトウェア技術の現状とISOの標準化活動の役割
- 分類と階層化に基づく情報提供エージェントの実現
- グラフアルゴリズムアニメーション with AATT
- 引用文献の同定
- テキストエディタにおける能動的ヘルプシステム
- 電子展覧会の演出
- 将棋の序盤戦における知識を利用した着手決定
- オブジェクト指向とシミュレーション (オブジェクト指向プログラミング)
- 3. 標準化の状況 3.2 アイコン (ソフトウェア工学における標準化動向)
- 共生・寄生モデルにおけるモーバイルエージェントに対するデバッガ
- エージェントの戦略的プランニング機構
- 4G-3 MIDIシーケンスソフトにおける作曲支援ユーザインタフェース
- 2Y-9 コンピュータセンターに対するビジネスオブジェクトの適用(情報システム技術と環境,一般講演,コンピュータと人間社会)
- 3ZC-3 等高線データからグリッド曲面を生成する手法の一提案(曲面と設計,一般講演,インタフェース)
- 4ZA-7 カスタマイズ可能なアプリケーション利用ガイダンスシステム(UIエージェント,一般講演,インタフェース)
- 1ZA-4 ユーザ属性を考慮したヘルプの生成(UI開発支援,一般講演,インタフェース)
- 5V-8 仮想空間の分散処理での通信の実現について
- 4P-6 WWW情報に関する知識のグループ内での共有支援
- あいまいなコマンドに対応したドローイングツールインターフェース
- ウィンドウシステムにおけるユーザタスクを利用したレイアウト支援
- 発言タイプを利用した非同期議論支援システム
- 資料の操作に着目した会議支援ツールについて
- ホームページからの論理構造の抽出
- 検索事例を利用したWWW情報検索支援ツール
- WWWブラウザのブックマーク閲覧・登録支援ツール
- WWW情報の自動分類に関する研究
- ユーザの目的に応じたWWW上の自動検索
- コミュニケーションのための擬人的インターフェイス作成支援システム
- 遺伝的アルゴリズムを用いたスケジューリング問題
- 計画問題を解く手法としての遺伝的アルゴリズムとルールに基づく探索との比較
- 移動エージェントのための共生・寄生モデル
- 寄生モデルによるマルチエージェント協調プロトコルの動的拡張
- 寄生・共生モデルに基づくエージェント協調メカニズムとXMLを用いたエージェント通信言語
- 拡張可能なエージェントのための共生・寄生モデル
- 離散型シミュレーション言語の現状と将来の展望(2) : SIMULA, SIMSCRIPTによるモデル化
- 離散型シミュレーション言語の現状と将来の展望(1) : GPSS によるモデル化
- Motion Groove : ライブステージ演出ツール
- 大規模データを対象とした文書情報集約データベースと評判分析サービスにおける検証(データ工学,Web情報システム)
- 多義性を考慮した拡張固有表現のクラス判定手法 (データベース Vol.4 No.4)
- GPSS処理系の比較
- 9. SIMULA (プログラミング言語の最近の動向)