三段階培養法によって得たタバコ葉肉プロトプラスト由来の復原植物体における遺伝的安定性
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概要
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著者らは前報において,タバコの葉肉プロトプラストから急速に不定芽形成を誘導する三段階培養法を確立した。本研究では,この方法で得た復原植物体の遺伝的安定性を明らかにする目的で,培養期間における染色体変異と,復原植物体の染色体数ならびに若干の量的砂質に関する変異の有無について調査した。 培養期間中,カルス生長にともなって核内分裂による倍数化細胞(ほとんど四倍性細胞)が徐々に増加し,第II培養終期の約100細胞で構成されているカルスでは,約10%の細胞が倍数性を示した。しかし,この期間中に異数性の細胞は全く認められなかった。また異数性を誘起する分裂後期の異常,たとえば染色体橋,遅滞染色体だとも認められなかった。一方,第III培養の不定芽分化期に入ると急速に倍数化細胞が減少し,観察した分裂像の99%が正常な二倍性(2n=48)を示すにいたった。また,復原幼植物182個体について根端細胞で染色体数を調査した結果,2個体は四倍体,残り180個体は正常な二倍体であった。本三段階培養法では培地の更新を短期間に行い,カルス生長期間の短縮化をはかっている。このような培養法が染色体構成の安定性に関係していると考えられた。 開花期まで育成した二倍体34個体中,1個体のみは矮性で花粉稔性が低く遺伝的変異個体と考えられた。しかし,他の33個体には,開花期に調査した草丈,葉数,葉型,花型などについて高い斉一性が認められ,いずれも高い花粉稔性を示した。また,これらと原品種キサンチとの間で葉型,花型,花粉稔性に有意差は認められなかった。復原植物体は,原品種に比し草丈がやや低く,葉数も少なかったが,この原因は幼植物期の生育条件の差,すなわち復原植物体は培養瓶中で経過したところにあると考えられた。 以上の結果から,プロトプラストの三段階培養法は,培養中の染色体変異を抑制L,遺伝的安定性の高い復原植物体を得るに有効な培養法であると考えられた。
- 日本育種学会の論文
- 1984-12-01
著者
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