胚珠培養によるNicotiana trigonophylla Dun.とN. tabacum L.の種間雑種の作出
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
Nicotiana trigonophylla Dun.とN. tabacum L.の通常の交配では、受精後、胚珠の発育が停止するため雑種を得ることが難しい。本研究では、この組み合わせについて、胚珠培養を適用し、雑種の作出を試みた。除雄したN. trigonophyllaの柱頭上に開花当日、N. tabacumの花粉を受粉した。まず受精胚珠の適切な培養時期を把握するため、受粉後、3日目から11日目までの子房を用いて交雑胚珠とN. trigonophyllaの自殖胚珠の発達過程を組織学的に観察した。経時的に観察した結果、受粉後3日目には共に接合子がみられ、5日目までは両者共に初期球状型胚を持っていて差は殆ど見られなかった。6日目以後、自殖胚珠は急成長し、11日目には成熟胚と共によく発達した胚乳を持っていたが、交雑胚珠は胚の発達が初期球状型で止まり、さらに胚乳と種皮最内層が退化し初め、その後、胚は崩壊した。11目目には胚と胚乳がない空虚な胚珠が観察された(Fig.1)。この結果から、受粉後、3、4、5日目の胚珠を培養に供することにした。胚珠培養にあたっては、受粉後、3、4、5日目の子房を植物体から採取し、さらに子房から個々の胚珠を切り出して、培地に置床した。培地はNitsch(1972)のものにMaheshwariとLal(1961)のビタミン類、5〜10%のショ糖、マンニトール(ショ糖の一部をマンニトールで置き換え、ショ糖濃度6〜10%に相当するように調節したもの)、0.8%の寒天を加え、pH5.8に調整した。培養は30日間行なった。培地中のショ糖濃度を変えて培養した結果、受粉後、3日目の胚珠はほとんど発芽しなかったが、4、5日目の胚珠は6〜9%のショ糖濃度で発芽が見られ、特に5日目の胚珠は7〜8%のショ糖濃度で10%前後の発芽率を示した(Fig.2)。さらに発芽率を上げる工夫としてショ糖濃度の一部をマンニトールで置き換えたところ、ショ糖4%+マンニトール0.140モル(合計でショ糖濃度8%相当)の培地で培養胚珠の発芽率が20.9%を示し、多数の幼植物体が得られた(Fig.2)。この得られた幼植物体中、30個体について、開花期まで生育させたところ、いずれも両親より生育旺盛で、形態的に斉一であった(Fig.4)。花型、花色、葉型には両親の特徴が共に現われた。側枝の発達には母親の特徴が表現されていた(Fig.4)。根端細胞の染色体は36本(N. trigonophylla、2n=24、N. tabacum、2n=48)で、これらの植物は両親のゲノムを完全に合わせ持つ雑種であると考えられた。雑種植物の花粉は不稔であったので、コルヒチン処理をし、8個体の複二倍体を作出した。これら、複二倍体の形態的特性、すなわち、草姿、葉型、花型などは、倍加していない雑種植物とほとんど相違していなかった。しかし花冠がやや大きかった(Fig.4)。花粉稔性は90%以上であったが、その種子稔性は1〜5%に過ぎなかった。以上の結果から、N. trigonophylla×N. tabacumの交雑不親合性を克服するために、胚珠培養を適用し、多数の雑種植物が得られ、実際的に胚珠培養の有効性を確認することができた。しかしながら、複二倍体の種子稔性が低いことから、実際の育種プログラムに用いるにはなおいくつかの克服すべき問題点があると考えられた。
- 日本育種学会の論文
- 1988-09-01
著者
関連論文
- イネ種子由来カルスの不定胚形成及び不定芽形成特異的糖タンパク質の検出
- イネカルスにおける再分化経路の制御
- 58 耕うん・播種法の相違が乾田直播水稲の精米品質に及ぼす影響
- 水稲の栽培・収穫法および種子の大きさが発芽・出芽性に及ぼす影響
- 不耕起乾田条件における出芽深度の相違が直播水稲の出芽率・苗立ち並びに生育に及ぼす影響
- 耕うん・播種法の相違が乾田直播水稲の出芽・生育ならびに収量に及ぼす影響(栽培)
- 1 土壌水分、温度条件が深播きした水稲種子の出芽性におよぼす影響(栽培)
- 7 オオバコの踏跡環境における個体密度、花茎数、種子発芽の季節的変化
- 17 播種深度ならびに耕起条件の相違が乾田直播水稲の生育に及ぼす影響
- 無胚乳種子を持つイネ:4倍体にγ線を照射して誘発された新しい突然変異体
- イネの人為同質四倍体にガンマ線照射して得られた二倍体様植物体の形質の変異
- 播種深度ならびに栽植密度の相違が直播水稲の生育に及ぼす影響
- Nicotiana repanda WILLD. と N.tabacum L. の種間交雑における雑種致死の克服
- 水稲の採種条件に関する一実験
- タバコ柱頭滲出液に分泌されるSE32はβ-expansin様タンパク質PPALであり, その抗体は35kDaの柱頭滲出液タンパク質SE35とも反応する
- 染色体再配列による変異作出法の研究 : 4.γ線照射されたイネの人為4倍体の後代に出現した粒タンパク質の変異
- オオムギ品種の発芽種子糊粉層および胚盤におけるαアミラーゼの合成と分泌
- 試験管内受粉と胚珠培養による Nicotiana tabacum L. と N.rustica L. との交雑不和合性の克服
- タバコの子房内における花粉管の行動
- オオムギにおけるβ-グルカン含有率およびβ-グルカナーゼ活性の遺伝変異と麦芽品質との関係
- タバコの花粉からの不定胚形成に関与する要因
- タバコにおける花粉からの不定胚発生の誘導
- 三段階培養法によって得たタバコ葉肉プロトプラスト由来の復原植物体における遺伝的安定性
- タバコ葉肉プロトプラストからの不定芽誘導期間の短縮化
- Nicotiana tabacum から N.rustica への不完全なゲノムの導入
- 第5回国際植物組織培養会議をおわって
- 胚珠培養による Nicotiana rustica L. と N.tabacum L. の種間雑種の作出
- ペチュニアの胚珠培養と珠皮のでんぷん蓄積
- ペチュニアの培養胚珠における前胚の発育について
- ペチュニア胚珠の培養条件について
- 大豆品種における気孔密度の変動性に関する研究 : 第2報 土壌水分および光強度の抑制が気孔密度におよぼす影響
- 大豆品種における気孔密度の変動性に関する研究 : 第1報 葉の表裏および葉位が品種間差異におよぼす影響
- 44 ダイズ葉の気孔密度の品種間変異に影響を及ぼすいくつかの要因
- 43 ダイズ葉の表面と裏面における気孔密度の品種間変異
- 胚珠培養によるNicotiana trigonophylla Dun.とN. tabacum L.の種間雑種の作出
- [29]X線によって誘発された水稲早生突然変異系統の遺伝子分析 : 日本育種学会第13回講演会講演要旨 : 一般講演要旨
- Nicotiana trigonophyzla Dun.とN.tabacum L. の種間雑種より作出した複二倍体の生殖特性
- イネにおけるアルコール脱水素酵素欠失突然変異体
- イネにおける乳酸脱水素酵素cDNAのクローニング
- 高等電点α-アミラーゼ遺伝子で検出されるオオムギ属の種間および種内制限酵素断片長多型
- 二条オオムギにおける二群のα-アミラーゼ多重遺伝子族の創痕酵素断片長多型による解析
- オオムギ高等電点α-アミラーゼ多重遺伝子族の制限酵素断片長多型による解析
- 大麦におけるα-アミラーゼのバンドパターンおよびα-アミラーゼ活性の遺伝分析
- 等電点焦点法による,オオムギ発芽種子および麦芽のα-アミラーゼの酵素多型
- 未来につなぐ遺伝資源 : 連載にあたって
- イネの不定胚,および接合胚形成過程で特異的に発現する遺伝子のクローニング
- 植物の胚培養に関する研究 : II.イネ種間雑種の胚培養について