タバコモザイクウイルスに対するトマト品種の抵抗性(第7報) : TMV蛋白による抵抗性誘導,とくにトマト葉表皮膜面の組織化学
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概要
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[Author abstract]TMV protein (TMV-P, 10~100 ppm) was introduced into tomato cultivars, susceptible (F2) and resistant (ZK) to TMV, by using cotton thread ("Ugai method", Plate I, 1). TMV concentration, as determined by the chemical method, was reduced by the treatment both in F2 and ZK below that by non-treatment. The reduced rate was higher in ZK than in F2. TMV-P of 50 ppm was most effective in reducing TMV concentration. Peroxidase (PO) activity in both tomato cultivars, F2 and ZK, increased by TMV-P treatment. ATPase activity, which is stimulated by the additon of Mg^<2+>, increased in ZK, but not in F2. TMV-P used in this experiment, as determined by SDS gel electrophoresis, was a monomer (TMV protein sub unit, mol.wt. 17,000) or a mixture of monomer and polymer. TMV-P was labeled with fluorescein isothiocyanate (FITC) and was introduced into tomato plants. Fluorescence was found in vessels, and on cell walls of parenchyma and leaf epidermis, arid on nuclei in the latter. Histochemical demonstration of PO in the cross section of tomato stems revealed the activity on epidermis, endodermis,and vessel parenchyma. The activity, in addition, located on phloem by the treatment, especially in ZK. Further histochemical reactions were done on the leaf epidermis treated with TMV-P. RNase was found on nuclei, ATPase on cell membranes, PAS (Periodic Acid Schiff) on membrane structures of the broken epidermis due to rubbing. Reactions of 3 types of glycosidases (glucosidase, galactosidase, and glucuronidase) appeared on membranes, especially on the sand-grains like structure of epidermis adjacent to broken cells. Six types of lectins originated from plants were labeled with FITC and introduced into epidermis of tomato leaves. Fluorescence was mainly observed on the sand-grains like structure. Double labeling, using lectins labeled with FITC (yellow fluorescence) and TMV-P with rhodamine B (red fluorescence), was performed and these substances were treated on tomato leaf epidermis. Both substances were found on the broken cell membrane structure and the sand-grains like structure. From these results, the behavior of TMV-P on leaf epidermis is discussed in connection with its action for reducing TMV concentration. [摘要]1)タバコモザイクウイルス(TMV)の外皮蛋白(P)のみをとり出し、これをトマト(TMVに対して罹病性のF2および抵抗性のZK)体内に"うがい処理"(Plate I, 1参照)その他の方法で導入した。10-100ppmのTMV-P処理で、両品種とも無処理区に比較して、化学的方法で接種6日後に測定したウイルス量は減少した。ZKの方がF2より減少度か大であった。2)トマト葉内のペルオキシターゼ(PO)活性を測定した。TMV接種によりZKではPOか高まったが、F2では無接種のものと変らなかった。健全F2, ZKでは、10-100ppmのTMV-Pの導入で、両品種とも PO活性は増加した。3)トマト案内のMg^<2+>によって賦活される、ATPaseを測定した。 F2, ZKともTMVの接種では ATPaseは増加した。健全トマト葉を10~100ppmのTMV-P液に浸漬した。ZKでは無処理よりもATPase活性か増加したが、F2では不変であった。4)用いたTMV-PをSDSゲル電気泳動にかけた。SDSで分解をすると、すべてmonomer(TMV蛋白のsubunit, 分子量17,000)を生じた。SDSで分解しないと、作ったときの試料により、ほとんどmonomerのもの、あるいは50%monomer、50%dimerあるいは、それより高分子のもの、などを生じた。5)TMV-Pを蛍光色素fluorescein isothiocyanate(FITC)により標識した、これをトマト体内に入れて蛍光顕微鏡で観察した。茎からTMV-Pを入れると、それは道管部、および道管につながる柔組識細胞の細胞膜に導入した。TMV-Pをカーボランダムとともにトマト葉に摩擦すると、表皮細胞の細胞膜および核に蛍光か認められた。6)組織化学的に検出すると、TMV-Pのトマト葉への摩擦によって、表皮細胞の核のRNaseおよび細胞膜のATPase活性が誘導された。7)トマト葉表皮細胞のエクトデスマー夕(ED)を検出した。TMV-P処理でED数は無処理のものより増加した。8)トマト葉の横断切片を用いてPOを組織化学的に検出した。POは表皮細胞、内皮、道管柔細胞に認められた。TMV-P処理では、さらに師管部に活性があり、その傾向は特にZKで大であった。9)TMV-P処理によるトマト葉表皮細胞の膜面の組織化学反応を実施した。PAS(Periodic Acid Schiff)反応は、処理葉ではとくに破壊した細胞膜面およびその周辺の砂粒状変性細胞に認められた。.同時に配糖体分解酵素(glycosidases)、その中でもとくにglucosidase, galactosidase, glucuronidaseの反応か同じ場所で検出された。10)6種の植物起源であるレクチン(lectins)と蛍光色素(FITC)の結合したものを用いた。トマト葉をTMV接種、TMVP摩擦、脱イオン水摩擦の各処硬直後、前記結合液に浸漬すると、主として砂粒状変性細胞に特異蛍光が認められた。この傾向は脱イオン水処理でとくに顕著で、接種またはTMV-P前処理では低下した。11)レクチンをFITCで、またTMV-Pを赤色の蛍光を発するrhodamine Bで標識したダブルラベルの実験によると、レクチン・TMV-Pともトマト葉表皮細胞の摩擦による破壊部の細胞膜面や砂粒状変性細胞に検出された。12)以上の事実からトマト品種内でTMV-PがTMV量を減少させる、いわゆる抵抗性誘導の原因を次の諸項から考察した。(a))葉の表皮細胞膜面では、砂粒状変性細胞で代表される原形質膜面の糖蛋白頼粒 (おそらくウイルス受容体)を、TMV-Pがさきに占有して、TMV粒子の付着に対して桔抗すること。(b)TMV-Pによって誘導されたPOは、とくにに師管部に現われウイルス通路にあたる師管のフェノール代謝を促進する。この傾向はとくに抵抗性のZKでいちじるしく、ウイルス増殖を阻害する。(c)TMV-Pは葉表皮細胞の核に導入し、そのRNase活性を誘導することから、トマト体内の核酸や蛋白の合成系に作用し、ウイルス増殖阻害に関与するなんらかの物質を生じる可能性があること。本項については目下実験中である。
- 1981-03-15
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