酵素合成アミロース
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
アミロースはデンプンの構成成分であり,最も良く知られた食品用多糖といえる.しかしながら,デンプンからアミロースを精製することは困難であるため,純粋なアミロースの量産は行われておらず,食品への利用研究も充分ではない.近年,酵素を利用したアミロースの量産技術が開発され,純粋なアミロースの利用が可能となりつつある.天然アミロースとの違いを明確にするため,このように酵素反応により合成されたアミロースを酵素合成アミロースという.植物が蓄積するデンプンは,アミロース及びアミロペクチンと呼ばれる2種の多糖の混合物である.アミロースはグルコースがα-1,4結合で多数結合した直鎖状多糖であり,アミロペクチンは重合度15程度の短いアミロースがα-1,6結合を介して多数結合した分岐状多糖である.とうもろこし,馬鈴薯,米,小麦などのデンプンは通常20%程度のアミロースと80%程度のアミロペクチンを含んでいる.デンプンからアミロースを分離する方法として,有機溶媒によるアミロースの選択的沈殿法がある.しかしこの方法では,アミロースとアミロペクチンの完全な分離は困難であり,製造コストも高く,現実的な方法ではない.さらにデンプンから精製した天然アミロースは,完全な直鎖状多糖ではなくα-1,6結合によるわずかな分岐を含み,かつ天然物であるがゆえに分子量分布も広い.一方,デンプンからアミロースを分離する製造方法ではなく,酵素を用いてグルコースを順次結合させ,アミロースを合成することも可能である1).中でも砂糖に,スクロースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.7)とグルカンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.1)を作用させる方法2)3) (SP-GP法)は,高純度なアミロースを比較的安価に酵素合成する手段として有望である.実際にSP-GP法により製造した酵素合成アミロースの分析結果を図1に示した.SP-GP法では,全く分岐を含まない直鎖状アミロースが,非常に狭い分子量分布で製造されていることがわかる.さらに合成されるアミロースの分子量は反応条件により厳密に制御することが可能である.反応終了時には原料である砂糖に含まれるグルコースの約80%が酵素合成アミロースに変換されており,量的にも質的にも良好な結果が得られている3).酵素合成アミロースは,デンプン中の天然アミロースと基本的に同じ物質であり,消化管,生体組織,自然環境のいずれにおいても極めて優れた分解性を示す安全な素材である.さらに,包接化合物形成能力,ゲル形成能力,フィルム形成能力などの特徴を有する高機能材料であり,さまざまな産業分野での利用が考えられる3).その中でも特に食品分野には大きな期待が持てる.酵素合成アミロースの包接機能は,不安定な食品材料の安定化,フレーバーの揮発防止,臭いのマスキング,などの目的での利用が考えられる.加えて,酵素合成アミロースは,食品のテクスチャーや物性にも大きな影響を与えると考えられる.アミロースが食品のテクスチャーに与える影響は米を例にとって説明できる.もち米,うるち米(炊飯米),インディカ米は,それぞれ特徴あるテクスチャーを示すが,これら3種の米の成分上の最も大きな違いは,アミロースの含有量であると考えられている.もち米はアミロースを含んでいないが,うるち米は20%程度,そしてインディカ米はさらに多くのアミロースを含んでいる.酵素合成アミロースの重合度と含有量を変化させることにより,新たな物性やテクスチャーを有する食品の開発が期待される.
- 2006-04-15
著者
-
鷹羽 武史
江崎グリコ株式会社生物化学研究所
-
鷹羽 武史
江崎グリコ(株)健康科学研究所
-
鷹羽 武史
江崎グリコ株式会社 生物化学研究所
-
鷹羽 武史
江崎グリコ生化研
-
鷹羽 武史
江崎グリコ 健康科研
関連論文
- 酵素合成アミロース
- 多糖の酵素合成と産業応用
- アミロース製造に利用する酵素の開発と改良
- セルロースからアミロースをつくる新技術 : ホスホリラーゼカップリングによる結合様式の変換
- α-アミラーゼファミリーの概念 : グルカン加水分解酵素/グルカン転移酵素の相互変換, およびそれらの特異性変換のための合理的設計手段
- ランダム変異を用いた Streptococcus mutans 由来 Sucrose Phosphorylase の耐熱性の向上
- ランダム変異と点突然変異を組み合わせた Thermus aquaticus Amylomaltase の改変とその有用性
- 超好熱性細菌Aquifex aeolicus由来のブランチングエンザイム : その性質と高度分岐環状デキストリン合成への応用
- 616 好熱菌由来のBranching Enzyme : 構造遺伝子の塩基配列、発現および酵素の諸性質
- 141 B_6酵素トリプトファナーゼにおける必須カルボキシル基の同定
- 441 トリプトファナーゼにおける必須カルボキシル基の機能
- セルローステクノロジー ホスホリラーゼカップリング反応を用いた多糖のエンジニアリング
- 解説・主張 糖転移酵素を用いたデンプンの構造と機能の改変
- CGTaseのアミロースへの作用
- 大腸菌で発現させたThermus aquaticus由来耐熱性ホスホリラーゼの構造と諸性質
- CGTaseのアミロース環状化反応
- 603 Bacillus stearothermophilus由来の耐熱性phosphorylaseの性質
- ブランチングエンザイムによる新規環状糖の合成
- 馬鈴薯D酵素の諸性質 : 酵素
- 大腸菌由来アミロマルターゼの精製と諸性質 : 酵素
- 好熱菌Bacillus stearothermophilus由来グリコーゲン生合成系遺伝子群の解析 : 生体高分子・脂質
- 馬鈴薯D酵素によるアミロースからの環状糖の合成 : サイクログリカンの機能とその利用 : シンポジウム(S-3)
- ブランチングエンザイムによるアミロースおよびアミロペクチンの環状化 : 酵素
- CGTaseによるサイクロアミロース合成の可能性について : 酵素
- サイクロアミロースの性質 : 酵素
- D酵素によるサイクロアミロースの生産 : サイクロアミロース生産に及ぼす基質の影響 : 酵素
- 340 馬鈴薯D酵素の高分子デンプンに対する作用
- 806 Bacillus stearothermophilusの生産する2種の耐熱性プルラン分解酵素
- 酵素合成アミロースの繊維化
- 馬鈴薯D-酵素の機能と澱粉加工への利用
- デンプンの酵素合成と利用
- グルコースポリマーの酵素合成と応用(環境バイオテクノロジー:素材・エネルギー・保全へのアプローチ(I))
- 大環状グルカンの酵素合成とその性質
- 植物澱粉代謝におけるD-酵素の機能
- 環状デンプンの合成と諸性質
- 機能性繊維ヨードアミセル
- アミロース/セルロース複合繊維「AMYCEL(アミセル)®」の開発と機能
- Properties of Branching Enzyme from Hyperthermophilic Bacterium, Aquifex aeolicus, and Its Potential for Production of Highly-branched Cyclic Dextrin.
- Cyclization Reaction of CGTase on Amylose.
- Reaction of CGTase on Amylose.
- The Activity, Physiological Role and Biotechnological Application of Potato D-enzyme.
- Cp-17 グルカンデンドリマーの非還元末端選択的修飾技術の開発(多糖の構造・物性・合成,一般講演,日本応用糖質科学会平成25年度大会(第62回))
- Ap1-3 シアリルLacNAc含有球形多糖超分子の合成とインフルエンザウイルスとの結合能評価(糖質の構造・機能・生産,新技術-1,一般講演,日本応用糖質科学会平成24年度大会(第61回))
- Da2-2 α-amylase処理タピオカ澱粉のゲル物性及びそのメカニズム(澱粉および関連糖類の構造・物性・機能,一般講演,日本応用糖質科学会平成24年度大会(第61回))