バルク系および分散系における脂質の酸化
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概要
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脂質は栄養面のみならず嗜好性の点でも重要な食品成分の1つである。しかし、不飽和脂肪酸を含む脂質は酸化されやすく、酸化されると異臭を生成するのみならず、人体に好ましくない影響を及ぼす場合もある。一方、食品分野でもナノテクノロジーに対する関心が高まっており、固体や液体粒子の微細化による新たな機能性をもつ食品素材の開発が期待されている。エマルションのような脂質を分散相とする系で、分散相の粒子径を小さくすると、比表面積が増大するため、脂質の酸化が促進されることが危惧される。しかし、系統的な検討は十分には行われていない。そこで著者らは、水中油滴(O/W)型エマルションの油相やミセルに可溶化された脂質の酸化速度に及ぼす分散相の粒子径の影響について検討した。その結果を概観するとともに、関連する論文を総括する。また、分散系における脂質酸化の基礎となるバルク系での脂質の酸化反応速度についても著者らの既往の研究の概要を紹介する。さらに、粉末化した脂質の酸化速度に及ぼす分散粒子径の影響についても簡単に紹介する。バルク系でのn-6系高度不飽和脂肪酸(PUFA)の酸化過程は自触媒型の反応速度式で表現できた。また、熱重量分析装置および定温で操作した示差走査熱量計による測定から、n-6系PUFAの酸化過程における酸素との化学量論係数は全期間を通して1であった。さらに、n-3系PUFAの酸化過程の前半も自触媒型の反応速度式で表現できた。しかし、n-3系PUFAの酸化過程の後半は同式では表現できず、1次反応速度式を適用した。食用脂質は複数の脂肪酸からなるトリアシルグリセロールである。その酸化過程に対する基礎的な知見を得るために、PUFAに飽和脂肪酸またはそのエステルを混合した系におけるPUFAの酸化過程を測定した。飽和脂肪酸はPUFAに対する希釈剤として作用し、酸化速度定数が低下した。一方、あるPUFAに別のPUFAを混合すると、各PUFAの残存量と酸化により消失した両PUFA量の和の積に比例すると考える一種の自触媒型の反応速度式で表現できた。次に、不飽和脂肪酸を油相とするO/W型エマルション系での脂質の酸化に関与する多くの因子について概観した。さらに同系で、分散粒子径が脂質の酸化速度定数に及ぼす影響を検討したところ、油滴を微細化、とくに100 nm以下の粒子径になると、比表面積が飛躍的に増大するにもかかわらず、分散粒子径が小さいほど酸化速度定数が低下した。また、界面活性剤ミセル中に不飽和脂肪酸を可溶化させた場合にも、分散粒子径が小さいほど酸化速度定数が低下した。これらの現象を、界面活性剤の疎水部が脂質を希釈することによる効果に起因するとのモデルにより定量的に表現できることを示した。脂質の粉末化は、液状脂質と包括剤の濃厚水溶液から調製したO/W型エマルションを噴霧乾燥などにより急速に脱水することにより得られる。この第一段階であるO/W型エマルション中の油滴径が粉末化したのちの脂質の酸化過程に及ぼす影響を検討したところ、乳化時の油滴径が小さいほど脂質の酸化が遅延されることを見出した。
- 日本食品工学会の論文
- 2009-03-00
著者
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