亜臨界水を用いた脱脂米糠の二段階処理による乳化性および抗酸化性物質の生産
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概要
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常圧での沸点である100℃から臨界温度である374℃の範囲で加圧することにより液体状態を保った水を亜臨界水または加圧熱水という。亜臨界水とよぶ温度範囲については、明確な定義がないように思われるが、ここでは上述の範囲とする。常温常圧の水に比べて、亜臨界水は次の2つの特徴を有する。1つは温度の上昇とともに比誘電率が著しく低下し、200℃以上ではアセトンなどの水溶性有機溶媒のそれとほぼ同程度の値になる。この特性から、亜臨界水には疎水性物質が比較的高濃度で溶解する。もう1つの特徴は、イオン積が大きいことであり、200℃〜300℃では10(-11)(mol/kg)(2)のオーダとなる。すなわち、亜臨界水は水素イオンおよび水酸化物イオンの濃度が高く、高温であることが相俟って、水自体が酸または塩基触媒として作用し、加水分解のみならず、分解や異性化などの反応を触媒する。このような特性に基づき、亜臨界水を用いて食品残渣や農産廃棄物から有用物質を抽出しようとする研究が数多くなされている。 なお、亜臨界水を用いた処理では、(加水)分解と抽出が同時に起こると考えられるが、操作の目的より抽出と表記されることが多い。 著者らは、利用価値の低い農産(廃棄)物である脱脂米糠や小麦フスマの亜臨界水処理による有用物質の抽出と抽出物の利用に関する検討を行っている。脱脂米糠を150℃〜180℃程度の比較的低温で処理すると、糖質の含有率が高く、乳化性および乳化安定性を有する物質が得られる。一方、250℃前後の高温で処理すると、Lowery-Folin法で呈色するタンパク質性の物質(必ずしも高分子とは限らず、ペプチドやアミノ酸も含まれる可能性がある)の割合が高く、抗酸化性をもつ物質が得られる。これらの処理における抽出物の収率は温度にも依存するが、概ね20%から30%である。しかし、抗酸化性をもつ物質を得るために250℃前後の高温で処理すると、Mailard反応などに起因すると推測されるが、抽出液は著しく褐色を呈しており、用途の限定が危惧される。そこで、脱脂米糠を150℃〜180℃程度の比較的低温で処理して、糖質が多く乳化性などをもつ抽出液を得たのち、その残渣に加水してさらに250℃前後で処理すれば抗酸化性をもつ抽出液が得られるとともに、二段階目の処理では脱脂米糠中の糖質の含有率が低下しているため、着色が抑制できないかと着想した。 150℃〜180℃で処理することにより、既往の知見通りに、乳化性と乳化安定性をもつ物質が得られた。その残渣に一段階目の処理で回収した抽出液と同量の水を加えて、さらに250℃で処理したところ、抗酸化性をもつ抽出物が得られた。しかし、二段階処理により着色を抑えるという所期の目的は実現しなかった。これは一段階目の処理で抽出されなかった残渣にまだ多くの糖質が残存しており、それらが二段階目の処理で切り出されて低分子化して生成した単糖などが分解して着色物質を生成するとともに、タンパク質性の物質などとMailard反応などを起したためと推測される。一方、脱脂米糠を二段階で処理することにより、一段階目と二段階目の抽出物の和で計算した総括的な収率は50%前後と著しく向上した。二段階処理は操作が煩雑であるという問題はあるが、廃棄物量を大幅に低減でき、かつ乳化性と抗酸化性という異なる機能をもつ物質を得られるという点では利点があると考えられる。
- 日本食品工学会の論文
- 2009-06-00
著者
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