自閉症児者における言語行動の指導法 - スクリプトおよびスクリプトフェイディング手続きの検討(1) -
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
平成20(2008)年1月文部科学省中央教育審議会は「小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領の改善について」(答申)をとりまとめた。この答申は、すでに2月に公表された幼稚園、小学校及び中学校学習指導要領に続きすぐにも公表される次期特別支援学校学習指導要領の基本的な考え方を示している。この答申の特別支援教育の箇所において、現行の自立活動の内容5区分(健康の保持、心理的な安定、環境の把握、身体の動き、コミュニケーション)22項目に加え、新たな区分「人間関係の形成」を設けるとしている。また、「…自閉症、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)等も含む多様な障害に応じた適切な指導を一層充実させるため、他者とのかかわり、他者の意図や感情の理解、自己理解と行動の調整、集団への参加、感覚や認知の特性への対応」に関する項目を盛り込むとしている。このような特別支援教育の今後の方向から、自立活動において自閉症者などへの適切な指導を進めると同時に「人間関係の形成」という新たな区分の内容と指導方法を開発することは、特別支援教育の大きな目下の研究および実践課題であると考えられる。 自閉症者の地域生活を支える日常生活スキルや社会生活スキル、人とのやりとりに関わる言語行動や社会的スキルの発達支援方法の絶え間ない改善や開発の必要性は、上記の特別支援教育の目指す方向からも、今後一層高まっていくと言える。本研究は、自閉症者における言語行動および社会的スキル(以下、言語行動などと略す)の指導法に焦点を当てる。 自閉症者の言語行動などの指導で近年注目を集めている指導法の中から、特にKrantz, P. J.,& McClannahan, L. E. が開発したスクリプトおよびスクリプトフェイディング手続き(以下、S・SF手続きと略す)を取り上げることとする。 今回検討対象とする先行研究は、引用文献中の7研究である。直接関連する先行研究であるが、McClannahan & Krantz( 2005)は、検討対象から除外した。これは、McClannahan & Krantz( 2005)が、研究者、保護者、臨床家および教師を対象にこの指導法を包括的に解説した本のためであり、直接指導介入を実施した研究ではないためである。 McClannahan & Krantz( 2005)によるとS・SF手続きを構成する欠くことのできない要素は、活動スケジュール(McClannahan & Krantz, 1999)、極小録音再生機あるいは文章カードによるスクリプト(台詞)、SF手続き、段階的ガイダンスによるプロンプト、強化手続きなどである。S・SF手続きは、これらの手続きを組み合わせ、指導者や両親などに頼らずに、日常生活の中の自然な手がかりをきっかけとして自閉児者が会話を開始することを促していく指導法である。指導全体を構成するこれらの下位の手続きがそれぞれの役割を果たしながら、結果として効果的な指導法となり、自閉症者の会話スキルを促していると考えられる。 本研究の目的は、S・SF手続きに関する8研究の内、McClannahan & Krantz( 2005)を除いた7研究の指導方法を横断的に比較することでS・SF手続きの実施手続きの多様性と範囲を明らかにすることである。
- 2009-02-28
著者
関連論文
- スクリプトによる社会性の発達支援 : 感情の教育と調整の可能性の検討(2)(自主シンポジウム46,日本特殊教育学会第47回大会シンポジウム報告)
- 自閉症のコミュニケーション指導法に関する研究 - スクリプト・スクリプトフェイディング法による自発的会話スキル促進 -
- 自閉症児における社会的スキルの指導法の検討(1) - 言語プロンプトおよび文字プロンプト手続きを導入して -
- 自閉症児者における言語行動の指導法 - スクリプトおよびスクリプトフェイディング手続きの検討(1) -
- ソーシャルスキル支援とスクリプトIII(自主シンポジウム24,日本特殊教育学会第45回大会シンポジウム報告)
- 障害のある人と支援者の相互の力量を高める試み : 日本行動教育研究会35年の実践(招待講演)
- 自閉症児における社会性支援の課題と展望 : 新たな教育課程開発に向けて(自主シンポジウム27,日本特殊教育学会第46回大会シンポジウム報告)
- P1-28 自閉症児における先行子操作による自然な弁別の獲得 : 気になる行動の軽減(ポスター発表1)
- P3-09 自閉症児における日常生活スキルの指導 : 分化強化による適切な弁別の獲得3(ポスター発表3)
- P2-38 自閉症児における日常生活スキルの指導 : 分化強化による適切な弁別の獲得2(ポスター発表2)
- 授業参加行動に困難を示す生徒に対する支援 : 病弱養護学校在籍児における「カリキュラム介入」技法の適用
- P4-17 自閉症のコミュニケーション指導法に関する研究 : スクリプト・スクリプトフェイディング法による自発的会話スキル促進の試み(ポスター発表4)
- 自閉症生徒における携帯電話使用スキルの指導法の検討 - 携帯電話のかけ方とお迎え依頼行動の形成とその般化 -
- 協働型行動コンサルテーションの手引き試案の作成
- 中重度の知的障害のある児童生徒における短期目標の設定および個別の指導計画の作成法(1)
- 高機能自閉症児における感情語理解および表出の指導(1)
- 相互交渉的ルーティンを使った言語指導 : 行動分析学的アプローチの検討
- 授業の中で個別指導計画をどうすれば効果的に生かすことができるのか? : 個別指導計画とことばの指導とのインターフェースとしてのスクリプト指導(自主シンポジウム40,日本特殊教育学会第40回大会シンポジウム報告)
- 知的障害養護学校における応用行動分析 : その適用の現状と展望
- 協働型行動コンサルティーションの手引き試案の作成 (2) - 初期コミュニケーション行動の査定を中心として -
- 他者意図理解は教えられるだろうか? ; 発達障害児に対する課題遊び共同行為ルーティンを用いた「他児への援助行動」の学習可能性の検討
- 自閉症中学生2名に対するスクリプトおよびそのフェイディング手続きによる携帯電話スキルの指導--取次スキルおよび後からの報告スキルの習得と般化
- 自閉症者の会話に対するスクリプトおよびそのフェイディング法の適用に関する研究--集団活動における効果的な介入手続きの検討(1)
- 自閉症児におけるスクリプトおよびスクリプト・フェイディング手続きによる社会的会話の促進
- パーソナルコンピュータに制御されたスクリプトおよびスクリプト・フェイディング手続き : 小型液晶ディスプレイによる提示システム
- 自閉症児に対するコミュニケーション・会話指導などの実践研究 2
- P1-40 発達障害児の社会的スキルの研究 : ハプニング場面を活用した問題解決スキルの指導法の検討(一般演題(ポスター発表),サイコセラピーの融合とより良き社会的貢献を目指して)