湯檜曽川における3種のヤナギ科樹種の実生定着過程
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概要
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群馬県湯檜曽川流域に優占する3種のヤナギ科樹種(ユビソヤナギ,オノエヤナギ,オオバヤナギ)について3種の共存機構とユビソヤナギの個体群維持に必要な環境を検討するため,実生の消長に環境要因がどのように影響するかを調べ,3種の生活史特性を整理した。1999年春から2002年春まで,湯檜曽川の河川拡幅部の氾濫原約1kmに,1m×1mのコドラート66個を設置して,実生数を追跡調査した。水位観測所の日平均水位のデータから湯檜曽川の水位変動の状況を把握し,コドラートの環境要因(種子散布量,開空度,流水面からの比高,土壌水分,マトリクス粒径,表層基質,表層粒径,ヤナギ科樹木の優占パッチからの距離)の測定した。ヤナギ属のユビソヤナギとオノエヤナギは毎年多数の実生が出現し,新たな実生の出現は種子散布期間内に限られたが,オオバヤナギは調査を行った3年間のうち1年のみ多数の実生がみられ,種子散布終了後しばらくの間新たな実生が出現した。これらのことおよび種子の形状などから,ヤナギ属2種は先駆性が強く,春の融雪出水による高い地下水位を利用し,オオバヤナギは比較的先駆的性質が弱く,秋の降雨による地表水を利用していると考えられた。河川水位と比高ごとの実生の消長から,発芽から日が浅い個体は,比高が低いほど洪水によって流失しやすく,逆に比高が高いほど乾燥によって死亡しやすく,実生の定着は水位変動と密接に関係していた。また,ユビソヤナギはオノエヤナギに比較して,洪水や乾燥にあっても生残しやすかった。環境要因とコドラートごとの実生の消長から,比高が高く粗い土性の立地にはヤナギ属よりもオオバヤナギが出現しやすく,ヤナギ属の中ででは,ユビソヤナギの方がオノエヤナギより,比高が高く,やや粗い土性の立地でも生残が可能であった。これらから,3種の実生は定着する立地が少しずつ異なることが明らかになった。湯檜曽川は,氾濫原の比高や土性などの立地環境が多様であり,適度な水位変動が起きることによって水分条件は時間的に変化し,様々な撹乱が起きている。 3種は実生定着過程の生活史特性の違いによって,時空間的な変動に対応してすみわけ,共存していると考えられる。ユビソヤナギ個体群維持のためには,河川が本来持つ自然のプロセスを維持すべきである。| We investigated the relationships between environmental factors and the dynamics of seedlings of Salix hukaoana, Salix sachalinensis and Toisusu urbaniana along the Yubiso River in Gunma Prefecture to reveal the mechanisms which allow their coexistence and to clarify the environmental condition necessary to a maintain S. hukaoana population.
- 東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林,The Tokyo University Forests,東京大学大学院農学生命科学研究科,Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyoの論文
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