ヨヘン・フーンの歴史教授学(2) ―歴史教授にとっての歴史的客観性の意義―
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概要
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本稿は,ドイツの歴史教授学者J.フーンの著書『歴史教授学』に関する研究報告である。 わたしたちは本稿において,『歴史教授学』の内容から示唆を得ながら,歴史学が過去の現実をどのように取り扱うのかということを明らかにし,そしてその取り扱い方を参照することが歴史教授にとって重要な意味を持つということを示す。歴史学とは過去にあったことを可能な限り歪めることなく把握することを目的とする過去の取り扱い方である。そのためにそれは独自の客観性の基準を有しており,その第一のものが他の研究者の追試が可能である研究をするという間主観的検証可能性である。しかし,同じ歴史的事象を対象としており,さらに共にこの間主観的検証可能性基準を充たした複数の研究があったとして,その研究成果が異なってしまうという場合がしばしばあり,そのことが巷では歴史学の成果に対する不満の種となっている。このような食い違いの原因は,歴史家たち個々人の社会的個人的背景にある。その背景に基づいて歴史に関する諸表象が形成され,歴史家たちはそれに従って研究対象を選択するために研究成果が異なることになるのである。そのため,歴史的客観性を確保するには研究者が自分自身の歴史に関する表象を意識化し,それの研究への影響を反省していなければならない。歴史学者たちが他の人々と歴史を共有するために設定した歴史的客観性の基準は,独りよがりでなく,他の人々との対話に対して開かれた歴史意識を得るための歴史学習を考える上で示唆に富んでいる。
- 2006-03-15
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