動作法による震災後の急性ストレス障害からの回復過程に関する事例研究
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概要
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急性ストレス障害の心理治療における大切な観点は、安心・安全の体験のもとでトラウマ体験と向き合うこと(直面化)を援助することである。それには、動作法による心身の快適な体験の援助が有効であると考えられる。本研究では、東日本大地震によって急性ストレス障害を訴えた女性に対して動作法の援助を行い、その回復過程の検討を通して、心身の快適な体験の意義について考察した。クライエントは45歳の主婦である。震災直後から、心身の緊張や疲労、抗うつ症状、不安障害、睡眠障害などを訴え、約1か月半が経過していた。面接は1週間から2週間の間隔で、合計6回行った。1回の面接時間は60分間である。日常生活の様子や心身の状態に関する報告に続いて、動作法の援助を行った。動作法の援助には、主として「とけあい動作法」(今野、2005)と「腕あげ動作コントロール」(今野、1990)を用いた。6回の面接で、症状に顕著な改善(IES-R得点の低下、SDS得点の低下、GAF得点の上昇)がみられた。6カ月ごとに行った3回のフォローアップにおいても、終了時の状態を維持していた。動作法の体験と感情・認知への気づきの特徴から、面接経過を次の3つの段階に分けることができた。第1段階(第1回から第2回)では、心身の快適な体験によって、感情・認知への気づきが生まれた。第2段階(第3回から第4回)では、身体の体験の精緻化と身体への感謝の気持ちが、「世界との新たな出会いの楽しみ」をもたらした。第3段階(第5回から第6回)では、身体の快適な体験のもとで生まれたマインドフルな態度が、過去の記憶の自然な想起とそれに対する直面化(セルフ・エクスポージャー)を可能にした。さらに、過去の記憶への意味づけの再構築によって、新たな自己発見がもたらされた。以上の経過から、動作法の快適な体験は、心身の体験と感情・認知との関係への気づきや震災の恐怖体験に対するマインドフルな態度を促進し、震災の恐怖体験や過去の記憶との直面化と再構成を促進することが示唆された。
- 2013-03-01
著者
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