健常高齢者における加齢による注意の抑制機能低下顕在化の要因検討

概要

論文の詳細を見る
本研究では加齢による注意の抑制機能の低下がどのような状況で顕在化するのかを検討した。実験は、高齢者群(平均年齢72.1歳)98名(男性36名、女性62名)、若年成人群(平均年齢22.0歳)30名(男性17名、女性13名)の2群に対し3条件(選択反応課題、GO/NO-GO課題、二重課題)を与え、抑制の低下要因を処理速度、処理資源、注意制御の相互関係に焦点を当てた。その結果、選択反応課題とGO/NO-GO課題においては、高齢者群と若年成人群間に誤反応の有意差は認められず、処理速度のみの遅延が認められた(p<.05)。しかし、二重課題を遂行した時に限り、高齢者群のみで処理速度の遅延(p<.05)だけではなく「抑制の失敗」が有意に増加した(F(1,126)=21.65, p<.01)。さらに、「課題切り替えの失敗」が特徴的に認められた(t(97)=1.92,p=.056)。これらより健常高齢者の抑制機能低下は、(1)加齢により注意制御の低下や処理速度の遅延、処理資源の減少が認められるものの、処理速度の調整が出来るといったような補完しあえる環境下では抑制機能の低下は顕在化しない。しかし、(2)多くの注意制御が必要な複数の課題を、同一の処理資源で限られた時間内に同時に処理しなければならない時に顕在化することが判明した。